第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-11] ポスター:精神障害 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-11-2] 回想コラージュブック制作による長期入院統合失調症者の日常生活機能についての自己認識と他者評価の乖離縮小効果

金子 史子1, 齊田 和哉1, 花岡 秀明2, 岡村 仁1 (1.広島大学医系科学研究科 精神機能制御科学研究室, 2.広島大学医系科学研究科 老年・地域作業機能制御科学研究室)

はじめに
統合失調症者本人が認識している自己能力と周囲の人からの評価に乖離があることはしばしばある.自己能力を正しく認識できていないことは,能力の高低よりも実生活での機能的転帰への重大なリスクとなることが先行研究で指摘されている.本研究では,回想コラージュブック制作により長期入院統合失調症者の自己認識を改善し,スタッフの対象者理解を深めることで,双方の認識の乖離を縮小することができないかと考え,無作為化比較試験にて効果検証することとした.また,特に自己認識と他者評価の乖離の大きい者において乖離縮小効果の有無を検証することとした.
方法
対象は,H県内6か所の研究協力の得られた精神科病院において,➀20歳以上➁統合失調症患者と診断されている➂今回の入院期間が1年以上➃精神症状が安定しており主治医から研究参加が可能と判断されている➄言語的コミュニケーションがとれる者を適格条件とし,本人から文書にて研究参加の同意が得られる者とした.対象者は通常プログラムのみ実施した対照群と通常プログラムに加えて回想コラージュブック制作を実施した介入群とに無作為に割り付けられた.回想コラージュブック制作は,ライフレビュー面接と,面接で取り扱われた話題をテーマとしたコラージュ作品を制作,最後にそれらを1冊の本にまとめ,振り返る,という内容のプログラムで, 1回60分程度,週1回の頻度で計6回の個別セッションを演者が各協力病院に出向いて実施した.
評価は介入前,介入後,介入後3か月の3時点で,日常生活機能の困難度・重症度の評価としてSchizophrenia Cognition Rating Scale (SCoRS)の本人評価と担当スタッフ評価を実施し,両者のスコアと,その差(乖離スコア)の変化を反復測定二元配置分析により介入群と対照群の2群で比較した.さらに,介入前の時点で,本人評価スコアがスタッフ評価スコアの±0.5SD以上乖離していた者に限定して同様に解析を行い,介入群と対照群の2群で比較した. なお,本研究は所属大学の倫理審査委員会の承認を得て実施した.
結果
適格条件を満たし,研究に参加した対象者は介入群23名,対照群23名の計46名であった.また,乖離スコアの大きかった者は,介入群で11名,対照群で19名の計30名であった.評価項目について介入群と対照群の2群で比較した結果,いずれの項目においても有意差は認められなかった.一方で,乖離スコアの大きい者に限定して解析した結果,乖離スコアの変化量において有意な交互作用を認め(p=.018),対照群ではほぼ横ばいである一方,介入群では経過を追うごとに乖離が縮小し続けていた.
結論
回想コラージュブック制作により,日常生活機能についての自己認識と他者評価の乖離の大きい長期入院統合失調症者に対して,乖離の縮小効果が得られることが示唆された.各評価スコア自体には有意な変化がなかったことから,本プログラムは,日常生活機能の向上や,対象者の自己認識の向上,スタッフの対象者理解の変化を生じさせることへの十分な効果があるとは言えない.しかし,それでも有意な乖離縮小効果が現れたのは,どちらか一方ではなく,双方の認識が近付いたためと推察された.また,介入終了後も乖離が縮小し続けていたことから,介入終了後も作品を介して対象者自身の振り返りが促されたり,スタッフの対象者理解が深まった可能性が考えられるが,それについては今後の更なる調査が必要である.