[PH-11-4] 統合失調症患者における声による情動表出ついて
【序論】統合失調症患者の社会参加において社会的認知機能が重要とされてきた.一方で,情動表出の減少も感情そのものが失われるのではなく,感情表現の程度が低下している状態であることから,対人技能など社会参加への影響が懸念される.統合失調症患者の情動表出は主に顔の表情と声の抑揚の変化が評価対象とされており,これまで観察者ベースの陰性症状評価が行われてきた.我々もこれまでに,Putnam(2007)の観察評価法に準じて,統合失調症患者と健常者の情動表出を比較した結果,「幸せ」と「怒り」の情動表出に差が認められ,「悲しみ」には差が無いことを報告した(2020).しかし,観察者の主観的な評価に基づいていたため,客観的指標による群間比較ができておらず,さらに観察者が音声のどのような側面に着目して評価しているのかについては明らかにできていない.この問題を解決するために,近年客観的な指標として注目されているコンピュータ解析を用いて音声分析を実施した.本研究により,人が他者の声のどのような側面に着目して感情を認知・評価しているのかが明らかになれば,患者の社会参加に向けた情動表出の治療的戦略を構築できると考える.
【目的】本研究の目的は,音声による情動表出について,コンピュータ解析により統合失調症患者の声の特性について健常者と比較し明らかにすることである.さらに,観察者の主観的評価とコンピュータによる客観的評価の関連性について明らかにすることである.
【方法】統合失調症患者23名(患者群)と健常者23名(健常群)を対象にした.研究参加者に短い文章に対し「幸せ」「怒り」「悲しみ」「無感情」のいずれかの感情を伴わせて音読させ,その録音音声を分析した.観察者評価では,まず録音音声を9名の評定者(対象者と面識のない作業療法士)が聞き,どの感情が表出されたのかを判定した.その結果の正答率をデータとして用いた.次にコンピュータ解析では,Cohen(2009)の方法を参考にし,録音音声からInflection(声の高低の変化),Intensity(声の大きさ),Emphasis(声の強弱),Speech Time(発話時間)の変数を算出した.統計解析では各変数の両群間比較を行うためにt検定を用いた.また,観察者評価とコンピュータ解析による客観的評価の関連性については,Pearsonの積率相関係数を用いた.尚,全ての分析はSPSS Ver.27で行った.本研究は,所属研究機関の研究倫理審査の承認(2014-203,31-001)を得ている.
【結果】コンピュータ解析による群間比較では,全ての感情において,患者群の方が有意にIntensityが小さく(ps<0.01),Speech Timeが長かった(ps<0.05).また,観察者評価とコンピュータ解析の関連性については,「幸せ」でIntensityが有意に相関(r=0,43, p<0,01)し,「怒り」でIntensity(r=0.40, p<0.01),Speech Time(r=-0.53, p<0.01)が有意に相関した.「悲しみ」では Inflectionと有意に相関(r=0.30, p<0.05)した.
【結論】コンピュータ解析において,患者群の方が全体的に声が小さくゆっくり話した.また,「幸せ」「怒り」については声の大きさが情動表出の判定に関連していた.これらArousalの高い感情では,観察者は声の大きさを一つの判定基準にしていると考えられた.また,「怒り」については,早口で発話する方が「怒り」と判定されていた.また,うまく「悲しみ」を表現するためには,声の高低の変化が重要であることが示唆された.
作業療法士には対人技能を改善し患者の社会参加を支援することが求められる.本研究結果から,SSTにおける声の大きさ,早さ,高低のつけ方への基本的指導は,情動表出を豊かにするための治療戦略にもなり得る.
【目的】本研究の目的は,音声による情動表出について,コンピュータ解析により統合失調症患者の声の特性について健常者と比較し明らかにすることである.さらに,観察者の主観的評価とコンピュータによる客観的評価の関連性について明らかにすることである.
【方法】統合失調症患者23名(患者群)と健常者23名(健常群)を対象にした.研究参加者に短い文章に対し「幸せ」「怒り」「悲しみ」「無感情」のいずれかの感情を伴わせて音読させ,その録音音声を分析した.観察者評価では,まず録音音声を9名の評定者(対象者と面識のない作業療法士)が聞き,どの感情が表出されたのかを判定した.その結果の正答率をデータとして用いた.次にコンピュータ解析では,Cohen(2009)の方法を参考にし,録音音声からInflection(声の高低の変化),Intensity(声の大きさ),Emphasis(声の強弱),Speech Time(発話時間)の変数を算出した.統計解析では各変数の両群間比較を行うためにt検定を用いた.また,観察者評価とコンピュータ解析による客観的評価の関連性については,Pearsonの積率相関係数を用いた.尚,全ての分析はSPSS Ver.27で行った.本研究は,所属研究機関の研究倫理審査の承認(2014-203,31-001)を得ている.
【結果】コンピュータ解析による群間比較では,全ての感情において,患者群の方が有意にIntensityが小さく(ps<0.01),Speech Timeが長かった(ps<0.05).また,観察者評価とコンピュータ解析の関連性については,「幸せ」でIntensityが有意に相関(r=0,43, p<0,01)し,「怒り」でIntensity(r=0.40, p<0.01),Speech Time(r=-0.53, p<0.01)が有意に相関した.「悲しみ」では Inflectionと有意に相関(r=0.30, p<0.05)した.
【結論】コンピュータ解析において,患者群の方が全体的に声が小さくゆっくり話した.また,「幸せ」「怒り」については声の大きさが情動表出の判定に関連していた.これらArousalの高い感情では,観察者は声の大きさを一つの判定基準にしていると考えられた.また,「怒り」については,早口で発話する方が「怒り」と判定されていた.また,うまく「悲しみ」を表現するためには,声の高低の変化が重要であることが示唆された.
作業療法士には対人技能を改善し患者の社会参加を支援することが求められる.本研究結果から,SSTにおける声の大きさ,早さ,高低のつけ方への基本的指導は,情動表出を豊かにするための治療戦略にもなり得る.