第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-11] ポスター:精神障害 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-11-5] 統合失調症患者の職業適性能力

河埜 康二郎1,2, 竹原 亜弥子1, 芳賀 彩織1, 遠藤 謙二1, 小林 正義3 (1.医療法人友愛会千曲荘病院, 2.信州大学大学院総合医理工学研究科, 3.信州大学大学院医学系研究科)

【はじめに】
 厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)は職業リハビリテーションにおいて職業前評価として用いられる評価法の一つである.高校生以上の一般成人における基準集団が設定されており,得点を換算点に置き換えることで基準集団の得点からどの程度離れているかを示すことができる.臨床場面で統合失調症患者にGATBを使用すると,換算点が平均値を大きく下回り,職業選択の指導に難渋することがある.しかし,統合失調症患者を対象にGATBにおける職業適性能の特徴を明らかにした研究はほとんどない.また,認知機能障害が統合失調症の社会的転帰に影響を及ぼすことが複数の研究から指摘されているが,職業適性能と認知機能との関連についても明らかにされていない.本研究の目的は,統合失調症患者のGATBにおける職業適性能の特徴を示し,さらに職業適性能と認知機能との関連を明らかにすることである.
【対象と方法】
 2016年5月~2023年1月に精神科デイケアの就労支援プログラムに参加した統合失調症患者を対象とした.GATBは15種の検査項目から9種の職業適性能換算点を算出した.認知機能検査は統合失調症認知機能簡易評価尺度日本版(BACS)を使用した.職業適性能と認知機能との関連性についてはピアソンの積率相関係数を求めた.統計は危険率5%未満を有意とした.本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得た.
【結果】
 プログラムに参加した統合失調症患者は42名(男:女性 = 26:16)で,平均年齢は40.7±10.4歳,教育年数は13.2±1.7年,罹病期間は14.7±10.6年,服薬量(CP換算)は422.9±328.9mgであった.GATBの換算点(平均±標準偏差)は,知能能力68.6±27.6,言語能力77.1±22.7,数理能力69.4±25.8,書記的知覚73.9±31.6,空間判断力69.4±23.8,形態知覚60.5±22.9,運動共応42.3±25.3,指先の器用さ46.5±22.2,手腕の器用さ50.0±26.6であった.BACS z-scoreは,言語性記憶-1.30±1.2,作業記憶-0.85±0.8,運動機能-2.04±1.4,言語流暢性-0.58±1.2,注意と情報処理1.14±1.2,遂行機能-0.45±1.2,総合得点-1.07±0.8であった.GATBの全項目がBACSの言語性記憶,注意と情報処理,総合得点と軽度から中程度の正の相関を認めた.また,空間判断力は言語記憶(r = 0.55),作業記憶(r = 0.59),注意と情報処理(r = 0.52),遂行機能(r = 0.53),総合得点(r = 0.62)との間に中程度の正の相関を認めた.
【考察】
 参加者はGATBの言語能力を除く全て項目で平均換算点が75点以下で,一般成人の平均を1.25 標準偏差下回り,明らかな職業適性能力の低下が認められた.特に運動共応,指先の器用さ,手腕の器用さの得点は低く,統合失調症患者の特徴と思われた.また,BACS z-scoreの総合得点の平均は-1.07±0.8であり,中程度の認知機能障害を認めた.GATBとBACSの相関分析では,多くの尺度間に正の相関を認め,GATBの空間判断力はBACSの言語記憶,作業記憶,注意と情報処理,遂行機能,総合得点とそれぞれ中程度の正の相関を認めた.平面図から立体をイメージ化し,物体の位置関係とその変化を正しく捉える「空間判断力」には多くの認知領域が関連しており,統合失調症の認知機能障害が反映されやすいものと思われた.