[PH-12-1] 認知課題による手掌部発汗反応と前頭前野脳血流動態―統合失調症群と健常群の比較
目的
精神疾患のバイオマーカーとして,血液,脳脊髄液,脳神経画像,神経生理学的検査などを指標とする研究が推進されているが,認知機能検査を除き臨床現場で実施可能な検査は少ない.手掌部(精神性)発汗は情動変化を反映し,前頭前野酸素化ヘモグロビン濃度変化(oxy-Hb)は認知や思考の活動指標となることが知られている.本研究の目的は認知課題に伴う手掌部発汗反応と前頭前野oxy-Hbを測定し,統合失調症患者の応対特性を探索することである.統合失調症に特徴的な応対特性が見いだせれば,これらのパラメータを評価や効果判定の一助として活用できる可能性がある.
方法
寛解状態にある成人統合失調症患者と健常者を対象とした.手掌部発汗はウェアラブル発汗センサ(SKW-1000,SKINOS)のプローブを被検者の非利き手拇指に,oxy-Hbは携帯型脳活動計測装置(HOT-2000,NeU)のヘッドセットを前額部に装着し,課題遂行中の反応を同時測定した.認知課題はJapanese version of Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)を用い,安静時をベースラインとし,認知課題16項目の反応量を定量評価した.本研究は産学共創プラットフォーム(OPERA)の研究課題として実施し,本学倫理委員会の承認を得た.
結果
参加者は統合失調症患者16名(男性12名,43.7±2.8歳,入院10名)と健常者15名(男性7名,42.2±2.5歳)であった.MoCA-Jの得点は患者群が24.1±0.9(カットオフ26/25点,10名が25点未満),健常群が28.4±0.3点で患者群が有意に低かった(p<0.01).課題中の反応量は手掌部発汗(mg/cm2・min),oxy-Hb(μM・mm)ともに患者群が多い傾向を示した.健常群の手掌部発汗は時間経過とともに漸減する傾向がみられたが,患者群では高い反応量が維持された.oxy-Hb(患者群/健常群)はTrail making test; TMT(0.53±0.09/0.24±0.10),時計描画(0.57±0.08/0.28±0.09),命名(0.42±0.10/0.15±0.09),記憶第1課題(0.45±0.10/0.15±0.10),注意第2課題(0.45±0.13/0.12±0.10),ビジランス(0.46±0.12/0.12±0.10),遅延再生(0.54±0.12/0.19±0.10),見当識課題(0.56±0.13/0.18±0.11)で患者群が有意に多かった(p<0.05).検査中盤の計算課題では健常群はoxy-Hbが増加したが,患者群では変化がみられなかった.また,後半の想起課題では健常群はoxy-Hbが増加したが,患者群では想起課題とこれに続く思考課題でoxy-Hbの低下がみられた.
考察
患者群ではMoCA-Jの得点がカットオフ値を下回り認知機能障害が認められた.手掌部発汗とoxy-Hbの反応量は患者群で多い傾向がみられ,認知機能の低下を示す患者群にとってMoCA-Jの課題が情動系と認知系の活性を促進させた可能性がある.経過中にみられた健常群の発汗漸減は「慣れ効果」による反応と考えられる.患者群では慣れが生じにくく不安や緊張感の高い状態が続いていたと考えられる.患者群では中盤の計算課題でoxy-Hbの増加がみられず,後半の想起課題と思考課題ではoxy-Hbの低下がみられ,これらは統合失調症患者にみられやすい思考不全と遂行機能障害を表す反応と考えられる.今後は患者個々の応答特性を検討していく必要がある.
精神疾患のバイオマーカーとして,血液,脳脊髄液,脳神経画像,神経生理学的検査などを指標とする研究が推進されているが,認知機能検査を除き臨床現場で実施可能な検査は少ない.手掌部(精神性)発汗は情動変化を反映し,前頭前野酸素化ヘモグロビン濃度変化(oxy-Hb)は認知や思考の活動指標となることが知られている.本研究の目的は認知課題に伴う手掌部発汗反応と前頭前野oxy-Hbを測定し,統合失調症患者の応対特性を探索することである.統合失調症に特徴的な応対特性が見いだせれば,これらのパラメータを評価や効果判定の一助として活用できる可能性がある.
方法
寛解状態にある成人統合失調症患者と健常者を対象とした.手掌部発汗はウェアラブル発汗センサ(SKW-1000,SKINOS)のプローブを被検者の非利き手拇指に,oxy-Hbは携帯型脳活動計測装置(HOT-2000,NeU)のヘッドセットを前額部に装着し,課題遂行中の反応を同時測定した.認知課題はJapanese version of Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)を用い,安静時をベースラインとし,認知課題16項目の反応量を定量評価した.本研究は産学共創プラットフォーム(OPERA)の研究課題として実施し,本学倫理委員会の承認を得た.
結果
参加者は統合失調症患者16名(男性12名,43.7±2.8歳,入院10名)と健常者15名(男性7名,42.2±2.5歳)であった.MoCA-Jの得点は患者群が24.1±0.9(カットオフ26/25点,10名が25点未満),健常群が28.4±0.3点で患者群が有意に低かった(p<0.01).課題中の反応量は手掌部発汗(mg/cm2・min),oxy-Hb(μM・mm)ともに患者群が多い傾向を示した.健常群の手掌部発汗は時間経過とともに漸減する傾向がみられたが,患者群では高い反応量が維持された.oxy-Hb(患者群/健常群)はTrail making test; TMT(0.53±0.09/0.24±0.10),時計描画(0.57±0.08/0.28±0.09),命名(0.42±0.10/0.15±0.09),記憶第1課題(0.45±0.10/0.15±0.10),注意第2課題(0.45±0.13/0.12±0.10),ビジランス(0.46±0.12/0.12±0.10),遅延再生(0.54±0.12/0.19±0.10),見当識課題(0.56±0.13/0.18±0.11)で患者群が有意に多かった(p<0.05).検査中盤の計算課題では健常群はoxy-Hbが増加したが,患者群では変化がみられなかった.また,後半の想起課題では健常群はoxy-Hbが増加したが,患者群では想起課題とこれに続く思考課題でoxy-Hbの低下がみられた.
考察
患者群ではMoCA-Jの得点がカットオフ値を下回り認知機能障害が認められた.手掌部発汗とoxy-Hbの反応量は患者群で多い傾向がみられ,認知機能の低下を示す患者群にとってMoCA-Jの課題が情動系と認知系の活性を促進させた可能性がある.経過中にみられた健常群の発汗漸減は「慣れ効果」による反応と考えられる.患者群では慣れが生じにくく不安や緊張感の高い状態が続いていたと考えられる.患者群では中盤の計算課題でoxy-Hbの増加がみられず,後半の想起課題と思考課題ではoxy-Hbの低下がみられ,これらは統合失調症患者にみられやすい思考不全と遂行機能障害を表す反応と考えられる.今後は患者個々の応答特性を検討していく必要がある.