第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-12] ポスター:精神障害 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-12-7] 前後比較の指標として箱づくり法検査が有用であった事例

神原 沙希, 荒井 留美子 (多機能型支援センターYerette)

【はじめに】
 箱づくり法検査は作業の構造の要素と被面接者との相互作用を利用した面接であり,対象者の主観的な体験内容も含めて評価の対象とする検査法である.
今回,当事業所の自立(生活)訓練利用者に対し,介入前後で箱づくり法検査を実施し,体験の感じ方,作業遂行能力の変化を比較した.その結果,介入による変化や,それに伴う今後の課題等の理解や共有に有用であったため,それを報告する.
【方法】
 箱づくり法検査を初回はサービス利用開始2か月後,その約1年半後(訓練終了2か月前)に再評価を実施し,前後比較を行った.発表に際し対象者から口頭・文書により同意を得ている.
【事例紹介】
 30代の統合失調症男性.高校中退後からアルバイトをするがどこも長続きせず,ひきこもり状態となり20代時に幻覚妄想が出現し医療保護入院となり統合失調症と診断され3か月入院.退院後には就労デイケアやB型作業所を経て障害者雇用で一般就労するが1か月で退職.その後生活を立て直したいと当事業所利用に至った.
【結果】
 初回の箱づくり法検査では見本利用はなく独力で書き上げるが時間を要した.失敗にはそれが目に見える形になって直面してから気付き,そこで初めてSOSの表出がなされた.振り返りの面接では回答内容が曖昧なことが多く自分の内面を言葉にすることの困難さが確認された.体験プロフィールでは心身ともに内省の困難さが見受けられた.またどこか受け身的な対人交流の持ち方も感じられた.この結果を受け筆者はSOS表出,ペース配分の調整を目的に,協働する構成的作業を用いて体験を共有し,心身の感覚の内省を促す介入を実施した.また定期的に面談を実施し,内面の言語化を促した.
 2回目の再評価では導入時より質問があり,取り組み早々に見本利用を希望した.何度も展開図を書き直すがそこでのSOS表出はなく,初回同様,形にしてから失敗に気付きSOSの表出がなされた.面接では初回の2倍近く時間を要したが回答内容は具体的で現実に即した内容となっており自身の内面に目を向けつつあると思われた.体験プロフィールでは若干困難感や愛着心,安堵感の項目が高くなり,場面毎の振り返りができつつあることが確認された.これらより,介入前後の変化として,振り返りが曖昧で自分からはSOSを表出しづらかった対象者が,介入経過を経て内省は若干分化し,対象者の中でSOSを表出することが最大の目的となってしまった点が窺えた.それらより,今後の課題として本当のSOS表出のタイミングやその内容への介入が必要であることや,そういった行動表出の背景にある,人との関係性の捉え方の特徴が改めて明確になり,対象者,関係者と共有した.
【考察】
対象者のニーズに沿った作業療法を実施するためには,回復・変化していく対象者の状態をタイムリーに評価し,その都度,目標設定や実施計画を対象者や関係者らと共有し,見直していく必要がある.今回の事例から,箱づくり法検査は作業療法の介入前後で変化していく対象者のどこに変化がみられたのか,変化によって生じた新たな特徴は何か,などを捉えるために前後比較の指標として用いることができ,これまでの介入の妥当性や今後の方針を考える根拠となることが示唆された.これらより,対人交流機能,主観的な体験内容を含めた作業遂行機能の特徴が視覚化できる箱づくり法検査を定期的に実施することは,変化する対象者のその時々の特徴を把握し,新たな目標設定や実施計画を再考するにあたり大変有用であると思われた.