第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-2] ポスター:精神障害 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PH-2-3] 危険飲酒のリスクレベルに応じた日本の大学生の臨床的特徴

宮島 真貴1, 井上 貴雄2 (1.北海道大学大学院保健科学研究院リハビリテーション科学分野, 2.大阪河崎リハビリテーション大学リハビリテーション学部 作業療法学専攻)

【はじめに】大学生の危険飲酒は,うつ病など様々なメンタルヘルスの問題を引き起こす (P Jensen et al, 2021).特に飲酒動機,怒り,抑うつ気分などの気分状態とストレスは危険飲酒を促進するため主要な治療標的となるが,大学生への介入は飲酒の危険性に関する啓発が主体で,飲酒のリスクレベルに応じた予防的介入は不足している.危険飲酒の蔓延には文化背景も関与するが(V Lorant, 2013),調査の多くは欧米諸国の実態であり,比較的自由な飲酒文化である日本の実態調査は限られている.以上のことから,日本の大学生における飲酒のリスクレベルに応じた臨床的特徴を明らかにすることは,予防的介入の標的を具体化し,大学生のメンタルヘルスの向上に寄与する.
【目的】大学生の飲酒に影響する飲酒動機,気分状態,ストレス対処能力の詳細な特徴を飲酒のリスクレベルの違いから明らかにする.
【方法】国公私立大学8校に2019年12月時点に在籍していた20歳以上の学生1313名を対象に自記式質問紙調査を実施した.除外基準は依存症の罹患歴がある者とした.調査票は人口統計学的特性(年齢,性別,学年,同居家族),アルコール依存症スクリーニングテスト(AUDIT),気分状態,ストレス対処戦略,怒りの状態を測定する尺度で構成された.統計解析は,AUTDITスコアでリスクレベルを3群に分け,一元配置分散分析とBonferroni post-hoc testを使用して,飲酒動機,気分状態,ストレス対処戦略,怒りの変数を比較した.さらにCohenのdを用いて効果量を測定した.性差はカイ二乗検定と残差分析により分析し,全ての統計解析の有意水準はp<.05とした.対象者には研究の趣旨および倫理について説明し,参加拒否の機会を保障した.参加に同意した対象者は調査票の記入に進んだ.本研究は著者所属機関に設置された倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】対象者のうち1207名から回答を得た(回収率91.9%).このうち除外基準の合致者を除く1067名を分析対象とした.対象者の平均年齢は21.25±1.41歳,男性は32.5%であった.AUDITによる分類は813名が低リスク群(1群),208名が高リスク群(2群),46名がアルコール依存症疑い群(3群)として抽出され,危険飲酒をしている学生(2・3群)が254名(23.8%)いた.2・3群では男性の割合が高かった(χ2=26.52,df=2,p<.01).飲酒動機は,ネガティブな感情からの回避とポジティブな気分を高めたいという動機が1群よりも2・3群で高かった.気分状態は,1群よりも2群で怒り,活力,親しみのレベルが高かったが,それ以外の下位項目において群間に有意差はみられなかった.ストレス対処戦略は,1群よりも3群で回避的で感情的な対処戦略をとる傾向があった.また,1・2群よりも3群で怒り感情と怒りの表現が強かった.
【考察】日本の大学生は他諸国に比べて高い割合で危険飲酒をしていることが分かった.抑うつ気分は,危険飲酒のリスクレベルで違いはなかったが,怒りやストレス対処戦略は,低リスク群よりも高リスク群,高リスク群よりも依存疑い群で怒り感情が強く,回避や感情的なストレス対処戦略をとる傾向がみられた.さらに飲酒動機でも回避や高揚感を得たいなど感情的な飲酒に頼る傾向があった.これらは危険飲酒のリスクが高い学生ほど感情的で攻撃的な感情を持ちやすく,ストレスからの回避手段として飲酒に至る可能性を示す.大学生の危険飲酒を予防するためには,リスクレベルに対応したストレス対処戦略や飲酒動機を評価し,回避的・感情的な飲酒や対処戦略をとる学生には新たなるストレス対処戦略の習得や,怒りのマネジメントが望まれる.