第57回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-2] ポスター:精神障害 2

Fri. Nov 10, 2023 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PH-2-6] 将来の生活を見据えた作業療法により気分の安定につながったうつ病の事例

阿部 沙耶香1, 大野 宏明2 (1.川崎医科大学附属病院, 2.川崎医療福祉大学)

【はじめに】
うつ病患者の48~60週間の累積寛解率は67%程度と言われている(Rush AJ,2006).抑うつ症状を呈する患者は,症状が軽快した後も自宅に閉じこもりやすく,生活上の様々な問題に対処できずにいることで,症状が増悪し再入院となる例は多い.当院でも短期間に入退院を繰り返す患者が多く見受けられていた.その為,入院中に将来を見据えた生活支援を作業療法(以下,OT)の中に取り入れることは非常に重要であり,患者のニーズを汲み取った介入が求められると考える.
今回,長年連れ添った夫が亡くなったことに加え,家族との揉め事により抑うつ状態で入院した不安の強い患者に対し,退院後の生活を見据えた生きがい作りや自宅での過ごし方への支援を取り入れることで,安心して地域生活を送れるようになったので報告する.尚,本報告に際し,症例から口頭及び書面上での同意を得ている.
【症例紹介】
A氏,70歳代,女性.診断名は双極性気分障害.現病歴は,X-14年に身体症状がストレス性と指摘され精神科を受診し,双極性気分障害と診断された.30年以上教員として働いていたが,休職を経て早期退職した.元々神経質で不安の強い性格であった.X年に長年連れ添った夫と死別したことに加え,家族との揉め事により抑うつ状態となり初回入院となった.A氏の問題点は,1)不安が強く一人で行動を起こせない,2)他者に頼れず家族に依存してしまう,3)できない部分ばかりに着目してしまう否定的な認知がある,であった.
【治療計画】
OTの治療目的と内容は,1)A氏の退院後の生きがい作りを目的とした関心の高い運動や作業の実施,2)通院に向け体力作りを目的とした散歩,3)居場所作りや対人交流を目的とした得意な活動への参加,とした.A氏のデマンドは,「誰かが傍にいて気に掛けて欲しい」であった.
【経過と結果】
Ⅰ期;OTRと活動を共に行った時期(X年~X年+1ヵ月):入院直後に個別OTが開始となった.強い不安から行動を起こすことへの拒否感や抵抗感が強かったが,作業療法士(以下,OTR)が不安を受け止めつつ,少しずつ行動を促す声掛けをすることで徐々に活動に参加できるようになった.特に得意な卓球では活躍し,他患者に指導するなど活動性が引き出されていた.また,退院後の通院に対する不安については,OTRと一緒に自宅と病院間を実際に歩くことで,少しずつA氏の退院に向けた取り組みが動機づけられていった.
Ⅱ期;退院後の生活を具体的にイメージし始めた時期(X年+1ヵ月~2ヵ月):入院時に楽しんでいたキーボードを自宅にも購入し,入院時のような作業ができる環境を整えることで,余暇の過ごし方を具体化していった.退院時は不安を訴えつつもOTRと決めた自宅での過ごし方を実践してみると言い,外来時に困ったことを聞いて欲しいと希望があった.退院後は外来OTに週に2回参加し,困り事の相談の場として利用する習慣がついたことで,3年以上再入院することなく経過している.
【考察】
A氏は不安を過剰に膨らませては閉じこもる傾向があり,将来に希望を持てない状態であった.OTRはA氏に寄り添いながら行動の後押しを行い,1つ1つ不安を解消していくことで退院に向けた自己効力感が高まったと考える.特に,通院の道順を一緒に歩いたり,自宅の環境調整を行うなど,退院後の生活を見据えた取り組みは効果的であった.長年培った思考のパターンから変容させることは困難を極めるが,A氏の興味や強みを生かした作業を取り入れることによって行動が動機づけられ,考えすぎて動けなくなるというA氏のパターンを崩していくことは非常に重要だったと考える.