第57回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-4] ポスター:精神障害 4

Fri. Nov 10, 2023 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PH-4-2] 「退院したい」の言葉の裏にある「退院が不安」に寄り添った支援

狐塚 辰朗 (特定医療法人 群馬会 群馬病院リハビリテーション課)

【はじめに】
 近年の精神科病院における新規入院患者の1年以内の退院率は88%である.一方で,1年以上の入院患者の退院率は長らく一定であり,未だ16万人を超えている.長期入院患者の退院が進まない要素に,退院に対しての不安による前向きな自信が得られないことが考えられる.本症例も退院したいが,不安や葛藤が大きいため,退院したくないというアンビバレンスな方である.両価的な思いを理解し,主体的な取り組みをサポートしながら退院準備を進めた経過を報告する.尚,本報告は対象者同意含む,当院の個人情報保護に準じ倫理委員会の承認を得ている.
【事例紹介】
 A氏,20代女性,統合失調症を呈した方である.父のDVにより両親は離婚.中学時から不登校,診療所受診により自閉症スペクトラムと診断される.その後,通院は中断され,自身の考えが漏れる様な感覚や行方不明騒動もあった.幻覚妄想状態により初回入院となるが,半年ほどで症状改善し退院した.しかし,2か月ほどで再燃,再入院から1年が経過している.現在,病的体験は落ち着き,病棟内ADLは自立しており,「早く退院してデイケアで活動したり,働いたりしたいです」と口にする.しかし,他患やスタッフに対して過剰適応で良い子として振舞うも,「私のせいで」と被害的・不穏になることも多く,無理が絶えない.また,退院間近になると精神症状の出現や自己卑下が強調され,自傷に至り退院を断念してきた.
【評価・目標設定】
 表面的には丁寧で前向きな言葉もあるが,言語化されない退院に対しての不安や葛藤があり,その中には取り繕いをしなければいけない,不安定な対人関係の構築があると評価した.不安感を緩和することが退院準備を大きく進めるものと考え共有した.A氏の中では不安は漠然としたものである様子だが,「自信をつけたい」「悩みすぎない」が課題として挙げられた.時間経過とともに具体的なものに整理され,「5㎏痩せて自信をつける」「他患に意思を伝えられる」となり,それを最終的な合意目標とした.
【介入・経過】
 介入初期では交流が少なく,表面的な会話,作業へ閉じ籠りやすい傾向にあったが,徐々に同性患者との交流や集団の場に他患と参加することが増えた.介入中期になると「ソーラン節を踊りたい」と作業療法士(以下OTR)に希望され,OTR含む4名で小集団を形成し,練習に励んだ.「明日も踊りたい」「この振りはこうしたら」と意思表示や提案をする姿もあった.また,他患との共同作業の希望もあり,ディズニーの貼り絵も実施した.頑張り過ぎではないかとOTRの懸念もあったが,「小学校の楽しかった記憶」「(他患が)退院するから思い出作りで」との言葉があり,A氏らの思いを尊重した.介入後期になると他患が先に退院し,ソーラン節はOTRと2人で練習する形となる.「(退院者と)デイケアで会う約束をしたので頑張ります」と勇ましい姿は長く続かず,1か月で体調崩すが,介入期間中は行動化に至ることはなかった.
【考察】
 A氏の退院への不安や怖さを理解し,早急に達成目標を提示するのではなく,本人ペースを尊重し,ゆっくりと目標を具体化したことは,安心感や主体的な取り組みに繋がったと考える.また,同世代患者との関わりや協同は自己の出会い直しや対人関係の再開・再構築となり,極端な適応から抜け出し,自己表現できる場を確保できたと考える.現状,自信が得られたかは定かではないが,A氏とOTR間,A氏と他患で提案する,それを受けるという心地よく頼り合えたことが自立への歩みとなったと思う.