第57回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-4] ポスター:精神障害 4

Fri. Nov 10, 2023 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PH-4-3] 癌治療中に精神科リエゾンチームとしての個別作業療法を導入し安定した精神状態で終末期医療へ移行できた気分変調症の1例

加賀美 開1, 千田 聡明1, 加藤 信之2, 宮腰 尚久3, 三島 和夫2 (1.秋田大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.秋田大学大学院医学系研究科医学専攻 病態制御医学系精神科学講座, 3.秋田大学医学部附属病院リハビリテーション科)

【はじめに】当院では2020年1月より精神科リエゾンチーム加算の算定を開始し,作業療法士1名を専任従事者として配置している.週1回のカンファレンス,回診に加え個別での往診,個別作業療法も実施している.個別作業療法はチーム介入の一貫として行い,対象者のニーズに柔軟に対応している.今回,胆のう癌治療中に多発肝転移が生じ,既往である気分変調症の増悪を認めた症例に対して個別作業療法を実施した.その結果,安定した精神状態で終末期医療へ移行できたため報告する.
【症例紹介】50歳代女性.14年前から気分変調症にて精神科に通院しており,他院精神科に計7回の入院歴があった.離婚しており,長男は独立していたため高校生の次男と二人暮らしだった.就労困難であり生活保護を受給していた.当院へ胆のう癌治療のため入院し,癌治療中に多発肝転移が生じ,ストレスに強く反応を示し病棟生活破綻の恐れがあったためリエゾンチームでの治療を開始した.本報告の趣旨を口頭で本人に説明し発表の同意を得た.
【初期評価】治療開始時の機能の全体的評価尺度 (以下,GAF):40. ADLは自立していた.これまでとは違うストレスを感じると話し漠然とした不安を訴えていた.病棟スタッフに依存的であり気分の変動が大きく不安定だった.治療に消極的な場面もあり病棟スタッフが対応に苦慮する場面も少なくなかった.
【チーム介入方針】作業療法士は作業を通して気を紛らわすことができる,何気ない会話ができる存在として関わった.週5回,1回30〜90分で個別作業療法を実施した.支持的な関わりを念頭に手工芸,軽体操,散歩などを実施した.リエゾンチームの医師は不安なことを話して聞いてもらうことで安心する,薬剤調整をしてくれる存在として,看護師は母親という立場で気持ちを共有出来る存在として関わった.
【経過】初回介入時(X年Y月)から7回の入退院を繰り返した.明らかな精神的不調をきたした第1,2,3,6回入院時にチームで介入した.第1回入院(Y月〜Y+1月):癌の告知があり精神的な苦痛に耐えられない状態となった.不安を解消すべく患者の訴えを支持的に傾聴した.依存的ではあったが進んで刺し子に取り組むなど主体的に気晴らし活動を実行できた.第2回入院(Y+1月〜Y+5月):肝切除術後に身体機能低下を認め移動を伴うADLに介助を要したため,体操や歩行練習を取り入れた.身体機能の低下に対し,気分の落ち込みもあったが身体機能の改善をフィードバックすることで不安も軽減した.第3回入院(Y+6月〜Y+7月):化学療法のために入院した.治療への漠然とした不安があり,更に入院前に次男と進路を巡って衝突があり不安を強めていた.支持的な関わりで治療に関する情報提供や進学に関する経験談を話すなどして過ごした.退院時には次男と話し合うことに関して積極的な発言を認めた.第6回入院(X+1年Y月〜Y+1月):終末期医療の提案があり強い落ち込みがあった.手工芸を介した支持的な会話の中で自身の状況を受容できた旨の発言があった.
【結果】GAF:50.不安は多いが受け入れる準備ができたと話した.病棟では穏やかに過ごした.終末期医療への移行準備として緩和ケア目的の第7回入院(X+1年Y+1月)を経て自宅へ退院し終活を行いながら終末期の緩和医療へ移行した.
【考察】チームでの関わりは役割分担が可能で過度な依存を防ぐことができた.チームとしての個別作業療法については指定された基準がないため柔軟な対応が可能であり実施内容,時間の細かな調整が支持的な対応を強化しストレス解消に有効であったと考える.