[PH-4-4] 社会復帰プログラムに引き続き認知矯正療法(NEAR)を実施した双極性障害の事例
【はじめに】北海道大学病院精神科神経科(以下,当科)では外来作業療法(以下,OT)と集団認知行動療法を組み合わせた,うつ病・双極性障害の社会機能改善と社会復帰のための包括的プログラム(Hokkaido University Hospital Integrated Recovery Activate Program:HIRAP)および認知機能改善療法のひとつであるNeuropsychological Educational Approach to Cognitive Remediation (NEAR)を実施している.今回,HIRAPとNEARを実施した結果, A型事業所への通所が可能になった事例を報告する.本報告について患者の同意を得ており,個人情報の保護に配慮した.
【事例紹介】40代の女性. X-2年に配置転換を契機に抑うつ気分,頭痛が現れ,X-1年に当科を初診し双極性障害と診断された.X年3月に仕事を退職し,同月から生活リズムの確立と集中力向上のためOTを開始して同年10月からHIRAPの導入が決定した.
【作業療法評価】 X-1年8月に実施したWAIS-Ⅲは全IQ85,言語性IQ90,動作性IQ82で,思考のまとまりのなさとともに,聴覚入力と視覚情報の処理の不得手さが認められた.X年10月に実施した Social and Occupational Functioning Assessment Scale(SOFAS)は40点.同月に北大式認知機能検査バッテリーにおいて, Wisconsin Card Sorting Test,Word Fluency Test,Stroop Test,Trail Making Test,Continuous Performance Test ,Verbal Learning Testを実施した.全般的な認知機能を示すComposite Scoreは-1.38だった. 面接では,「就労を目指したいが,疲れない工夫や不調に陥るきっかけを知りたい」と述べた.HIRAPでは不調に陥りやすいパターンの発見を目標とした.
【経過】HIRAPでは複数の技法を用いて認知や行動のパターンを分析した.患者は積極的に取り組んだが,複雑な事柄の分析や効率的な解決方法の案出は自力では困難だった.X+1年1月のHIRAP終了後は, 感情に流されず冷静に行動できるようになったと述べたが,医療関係者に相談せず契約内容を熟慮しないままB型事業所への通所を即断した.HIRAPで目標に設定していた,不調のきっかけをつかむことはまだ困難なままであった.認知機能検査上では機能低下が著明であり,患者は認知機能低下をあまり自覚していなかった.そこで,自分の認知機能の特性を理解し,複数の視点で物事をみられるようになることを目標として合意し,同年3月にNEARを開始した.具体的な方略の発案や日常生活との関連づけは苦手だったため,治療者が案を出して理解を促した.
【結果】X+1年6月のNEAR終了後のSOFASは50点で,北大式認知機能検査バッテリーのComposite Scoreは-1.15だった.日常生活場面では,予想外の状況で戸惑う場面が減り,言葉が出やすくなったことを自覚した.「焦る癖があることを教わったので,ゆっくり作業を行うことを心掛けた」と述べNEARを通して焦って失敗しやすい特性があることも理解した.NEARで知り得た,気持ちを落ち着ける方法を日常生活でも活かそうと試み,失敗する回数が減少した.NEAR終了後にA型事業所への通所が決定し,同年7月にOTは終了した.
【考察】就労支援と認知機能改善療法の組み合わせが就労アウトカムを改善することが報告されており(McGurk, 2022)今回の事例もHIRAPとNEARを実施した結果,認知機能の軽度の改善と社会機能の改善がみられ,A型事業所への通所が可能になった.HIRAPだけでは大幅な改善は難しかった,自己の特性の理解や認知機能の低さの自覚といった課題をNEARで引き続き取り上げ補完したことが有効であったと考えられる.
【事例紹介】40代の女性. X-2年に配置転換を契機に抑うつ気分,頭痛が現れ,X-1年に当科を初診し双極性障害と診断された.X年3月に仕事を退職し,同月から生活リズムの確立と集中力向上のためOTを開始して同年10月からHIRAPの導入が決定した.
【作業療法評価】 X-1年8月に実施したWAIS-Ⅲは全IQ85,言語性IQ90,動作性IQ82で,思考のまとまりのなさとともに,聴覚入力と視覚情報の処理の不得手さが認められた.X年10月に実施した Social and Occupational Functioning Assessment Scale(SOFAS)は40点.同月に北大式認知機能検査バッテリーにおいて, Wisconsin Card Sorting Test,Word Fluency Test,Stroop Test,Trail Making Test,Continuous Performance Test ,Verbal Learning Testを実施した.全般的な認知機能を示すComposite Scoreは-1.38だった. 面接では,「就労を目指したいが,疲れない工夫や不調に陥るきっかけを知りたい」と述べた.HIRAPでは不調に陥りやすいパターンの発見を目標とした.
【経過】HIRAPでは複数の技法を用いて認知や行動のパターンを分析した.患者は積極的に取り組んだが,複雑な事柄の分析や効率的な解決方法の案出は自力では困難だった.X+1年1月のHIRAP終了後は, 感情に流されず冷静に行動できるようになったと述べたが,医療関係者に相談せず契約内容を熟慮しないままB型事業所への通所を即断した.HIRAPで目標に設定していた,不調のきっかけをつかむことはまだ困難なままであった.認知機能検査上では機能低下が著明であり,患者は認知機能低下をあまり自覚していなかった.そこで,自分の認知機能の特性を理解し,複数の視点で物事をみられるようになることを目標として合意し,同年3月にNEARを開始した.具体的な方略の発案や日常生活との関連づけは苦手だったため,治療者が案を出して理解を促した.
【結果】X+1年6月のNEAR終了後のSOFASは50点で,北大式認知機能検査バッテリーのComposite Scoreは-1.15だった.日常生活場面では,予想外の状況で戸惑う場面が減り,言葉が出やすくなったことを自覚した.「焦る癖があることを教わったので,ゆっくり作業を行うことを心掛けた」と述べNEARを通して焦って失敗しやすい特性があることも理解した.NEARで知り得た,気持ちを落ち着ける方法を日常生活でも活かそうと試み,失敗する回数が減少した.NEAR終了後にA型事業所への通所が決定し,同年7月にOTは終了した.
【考察】就労支援と認知機能改善療法の組み合わせが就労アウトカムを改善することが報告されており(McGurk, 2022)今回の事例もHIRAPとNEARを実施した結果,認知機能の軽度の改善と社会機能の改善がみられ,A型事業所への通所が可能になった.HIRAPだけでは大幅な改善は難しかった,自己の特性の理解や認知機能の低さの自覚といった課題をNEARで引き続き取り上げ補完したことが有効であったと考えられる.