[PH-4-5] 急性期双極性障害者に対してナラティブ・スロープを用いて介入を行った一症例
【はじめに】
近年,患者自身が決定する「患者中心の医療」が医療の方向性とされる中,アドヒアランスの理解が重要な要素となる.今回,うつ病と診断された40歳代女性に対してナラティブ・スロープを作成し,これを基に生活歴の振り返りを行った.その中で双極性障害を疑うエピソードを認め,医師に報告後,双極性障害と診断された.治療方針の変更後,病識の理解が進みアドヒアランスの改善を認め,復職に繋がったため考察とともに報告する.発表に際し,本症例には説明の上同意を得ている.
【症例紹介】
40歳代女性,発達の遅れなく出生し,中学時代は郷土部,高校時代の成績は上位,大学は薬学部に進学.大学4年生で結婚・妊娠,卒業後は,薬剤師として働いていたが,夫の暴力行為・浮気・薬物使用等があり約10年間で離婚となる.その後,現在の夫と再婚.離婚直前よりうつ症状を認め通院開始.X年Y月に転職を機にうつ症状が再燃し,Y+9月に入水自殺を行い,当院にて医療保護入院となる.Demandは薬剤師として働きたい.
【作業療法評価】
入院7日後より作業療法開始.コミュニケーションは良好であるも,「病気じゃないんです,演技しているだけなんです」「こう見えて死にたい気持ちはあります」など病識の欠如,悲観的な発言,希死念慮あり.入院以前については話をしたくないと発言あり.
【介入経過】
介入当初は,楽しむ体験・身体面へのアプローチ・傾聴による精神的支持から開始した.介入6日目より過去について話をするようになり,現在に至るまでの良い事柄・悪い事柄についてナラティブ・スロープの作成を促した.振り返りを行う中で,双極性障害を疑う衝動的な買い物・睡眠時間が3時間等のエピソードを認め,介入15日目に医師と共有し,介入21日目に家族・本人と症状の確認を行い,双極性障害と診断された.しかし,本人は双極性障害に対して否定的であり,過去に躁状態になったのは「SSRIを服薬していたから」と否定的な発言も見られ,また,炭酸リチウムの使用による中毒症状が心配であるため拒薬されていた.拒薬に対して医師の指導の他に,ナラティブ・スロープを自身でも振り返るように促すと,「躁だった時もあるな,双極性障害を受け入れてみようかな」と発言があり,炭酸リチウムの拒薬も改善された.介入30日目より,今後に向けて,薬剤師として働けるだけの体力をつけたい,自己の対処法について学びたいと前向きな発言も見られるようになった.体力の向上に向けて,エルゴメータ・散歩・筋トレなどの運動を指導,対処法として日記をつけて日々自身の変化に気づくように指導を行った.
【結果】
双極性障害に対する治療へのアドヒアランスの改善が見られ,介入40日目に退院となった.退院後1カ月で薬剤師として復職され,約1年以上再燃することなく過ごされている.
【考察】
急性期双極性障害者に対して,ナラティブ・スロープを用いて生活歴を振り返ることで,躁状態のエピソードに気づくことができ,うつ病から双極性障害へ治療方針変更のきっかけとなった.アドヒアランスが改善した要因として,ナラティブ・スロープを作成していく中で,これまでどのような人生を送ってきたかを視覚的にわかりやすく,自身を客観的に整理することができたこと.医療者と良好な関係を築き,共に疾患を理解し,これから疾患に向き合っていくことを共有したこと.この2点が,本症例がアドヒアランスを好転させた要因してとして考えられる.本症例にとってナラティブ・スロープを用いた生活歴の振り返りは,「患者中心の医療」に繋がる有用な手段であったと考えられる.
近年,患者自身が決定する「患者中心の医療」が医療の方向性とされる中,アドヒアランスの理解が重要な要素となる.今回,うつ病と診断された40歳代女性に対してナラティブ・スロープを作成し,これを基に生活歴の振り返りを行った.その中で双極性障害を疑うエピソードを認め,医師に報告後,双極性障害と診断された.治療方針の変更後,病識の理解が進みアドヒアランスの改善を認め,復職に繋がったため考察とともに報告する.発表に際し,本症例には説明の上同意を得ている.
【症例紹介】
40歳代女性,発達の遅れなく出生し,中学時代は郷土部,高校時代の成績は上位,大学は薬学部に進学.大学4年生で結婚・妊娠,卒業後は,薬剤師として働いていたが,夫の暴力行為・浮気・薬物使用等があり約10年間で離婚となる.その後,現在の夫と再婚.離婚直前よりうつ症状を認め通院開始.X年Y月に転職を機にうつ症状が再燃し,Y+9月に入水自殺を行い,当院にて医療保護入院となる.Demandは薬剤師として働きたい.
【作業療法評価】
入院7日後より作業療法開始.コミュニケーションは良好であるも,「病気じゃないんです,演技しているだけなんです」「こう見えて死にたい気持ちはあります」など病識の欠如,悲観的な発言,希死念慮あり.入院以前については話をしたくないと発言あり.
【介入経過】
介入当初は,楽しむ体験・身体面へのアプローチ・傾聴による精神的支持から開始した.介入6日目より過去について話をするようになり,現在に至るまでの良い事柄・悪い事柄についてナラティブ・スロープの作成を促した.振り返りを行う中で,双極性障害を疑う衝動的な買い物・睡眠時間が3時間等のエピソードを認め,介入15日目に医師と共有し,介入21日目に家族・本人と症状の確認を行い,双極性障害と診断された.しかし,本人は双極性障害に対して否定的であり,過去に躁状態になったのは「SSRIを服薬していたから」と否定的な発言も見られ,また,炭酸リチウムの使用による中毒症状が心配であるため拒薬されていた.拒薬に対して医師の指導の他に,ナラティブ・スロープを自身でも振り返るように促すと,「躁だった時もあるな,双極性障害を受け入れてみようかな」と発言があり,炭酸リチウムの拒薬も改善された.介入30日目より,今後に向けて,薬剤師として働けるだけの体力をつけたい,自己の対処法について学びたいと前向きな発言も見られるようになった.体力の向上に向けて,エルゴメータ・散歩・筋トレなどの運動を指導,対処法として日記をつけて日々自身の変化に気づくように指導を行った.
【結果】
双極性障害に対する治療へのアドヒアランスの改善が見られ,介入40日目に退院となった.退院後1カ月で薬剤師として復職され,約1年以上再燃することなく過ごされている.
【考察】
急性期双極性障害者に対して,ナラティブ・スロープを用いて生活歴を振り返ることで,躁状態のエピソードに気づくことができ,うつ病から双極性障害へ治療方針変更のきっかけとなった.アドヒアランスが改善した要因として,ナラティブ・スロープを作成していく中で,これまでどのような人生を送ってきたかを視覚的にわかりやすく,自身を客観的に整理することができたこと.医療者と良好な関係を築き,共に疾患を理解し,これから疾患に向き合っていくことを共有したこと.この2点が,本症例がアドヒアランスを好転させた要因してとして考えられる.本症例にとってナラティブ・スロープを用いた生活歴の振り返りは,「患者中心の医療」に繋がる有用な手段であったと考えられる.