第57回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-4] ポスター:精神障害 4

Fri. Nov 10, 2023 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PH-4-8] コロナ禍における閉鎖病棟OTプログラムへの影響

村田 大地1, 美和 千尋2, 吉田 瑠理子1, 碓井 史1 (1.医療法人鈴桜会 鈴鹿さくら病院, 2.鈴鹿医療科学大学保健衛生学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻)

【はじめに】日本精神科病院協会が実施した2021年(令和3年)8月下旬までの調査では,回答711病院のうち310病院で新型コロナウイルス(以下,COVID-19)陽性者を確認している.当院においても,クラスター発生による隔離対応・活動制限を余儀なくされ,感染拡大予防のためにOTプログラムの変更や活動の縮小を迫られた.今回,担当病棟である急性期療養病棟においてOTプログラムの変更を行った際,対象となる入院患者だけではなく,周囲の治療者や支援者にとっても心理的影響が大きかったので,ここに報告する.なお報告に際して,当院の倫理委員会にて承認を得ている.
【クラスター発生状況】2022年5月27日から6月15日の20日間にかけて急性期療養病棟においてクラスターが発生し,COVID-19陽性者への隔離対応およびに,病棟への入室制限が施された.最終的に患者62名中48名,職員29名中10名の陽性者の確認が報告された.
【感染防止対策】COVID-19陽性者発生以前より,感染防止対策として1)使用物品や部屋の使用後の消毒,2)病棟外でのマスク着用の徹底,3)移動を含めた他病棟患者との接触の制限,を行なった.そのため,他の病棟患者との交流を促すプログラムの参加を中止し,病棟単位で行うプログラムへ変更する必要があった.
【OPENグループ】当院には他病棟患者の交流を促す「OPENグループ」というプログラムがある.これは患者が自主的にアクティビティを選択し,病棟外の作業療法室にて作業を実施するプログラムである.アクティビティの実施にとどまらず,他病棟の患者が集まり作業を行うことで交流の場やコミュニティの形成の場となり,日中の活動量の確保や生活リズムの調整だけではない重要な意味を持つ当院の中核的プログラムである.
【COVID-19クラスター前後の患者および治療者の変化】
[患者の変化]患者が自主的に選択できる活動に従事する時間が減り,集団での活動が中心となったことで落ち着きがなくなり,イライラすることが増えた.病棟での問題行動も増加した.反面,陰性症状により,無為自閉的な時間が増え,臥床傾向が進んだ.
[治療者の変化]集団的関わりが多くなり,記録量が増加し,個別に関わる機会が減少した.プログラム内容も画一的となり,作業のもつ治療的意味を感じにくくなった.作業療法で使用できる場所も狭まり,外出プログラムは禁止され,活動の治療的意味や治療者としてのモチベーションの維持が難しくなった.
【まとめ】COVID-19のクラスター発生は,感染予防が第1に考えられ,精神科作業療法の患者間の交流促進やコミュニティ形成促進を目的としたプログラムへの参加は中止という事態になった.このことは,交流を制限された患者だけでなく治療者にとっても治療的意味を狭めることとなり,精神的負荷の高いものとなった.このようにCOVID-19は患者本人にとどまらず,患者周囲の支援者・治療者にもネガティブな影響を与えるものであった.
【おわりに】一般病院と比べて,精神科病院は患者の行動抑制が利きづらいなど,疾患特有の困難さがあり,病棟内での密の回避や消毒剤の設置,マスク着用などの感染対策を困難にさせる場合も多く,クラスターを拡大させる要因になっている.そのため支援者側は密を回避し,他者との交流を制限するよう,環境面からの配慮を迫られてきた.COVID-19の感染状況が落ち着いてもそれは一時的であり,感染リスクの考慮,感染防止対策は継続して行かなければならない.感染防止対策を実施しながらも,如何に感染予防と作業療法のプログラムを両立させるかを工夫するかが今後大きな課題となる.いわば作業療法の新しい段階に入ったと痛感する.