第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-5] ポスター:精神障害 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PH-5-1] 作業療法士による触法障害者に対するオンライン支援の可能性

上原 央1, 林部 美紀2, 足立 一4, 吉田 裕紀5, 石田 眞由3 (1.姫路医療専門学校, 2.大阪保健医療大学, 3.大阪リハビリテーション専門学校, 4.高知リハビリテーション専門職大学, 5.常葉大学)

1.はじめに
 触法障害者が安定した生活を送り続けるために福祉的支援につながったとしても,社会生活上の問題や施設になじめず支援が途切れるなどの要因により,最終的に再犯してしまうことがある.このような事態を防ぐため,作業療法士によるオンライン支援「Go-Go-OT-Net」を立ち上げた.Go-Go-OT-Netでは直接的な支援とは別のサポート的な役割として,普段は言えない悩みや社会生活上の困りごとなどを話せる機会を作り,対象者への支援が途切れないことを目的としている.以下にGo-Go-OT-Netについて紹介し,実践から見えてきたGo-Go-OT-Netの可能性と今後の課題について考察する.2.対象者
 対象者1名に対し,主担当を含め2から3名の作業療法士が担当する.対象者は,刑務所や少年院等を出所した人,保護観察を受けている人,更生保護施設や自立準備ホームに入所中の人,刑事事件には至らないまでも触法行為がある人などが対象となる.利用の流れは,対象者自身が自ら申し込むことは難しく,関係機関からの依頼がほとんどである.
3.支援内容
 対象者がどのような生活上の希望や困りごとがあるか,カナダ作業遂行測定(COPM)などを使って明確にしていく.精神面に対しては,社会生活ではさまざまな問題やストレスが出てくるため,精神的安定やストレスコントロールなどの働きかけを行う.身体面については,直接的なアプローチは難しいが,自主的に行える運動や日常的なケアの助言等を行う.対人関係面については,新しい環境になって対人関係上の問題を抱える者が多いため,認知と行動に焦点を当てた介入やSocial Skills Training(SST)などを行う.また,関係機関との連携で行われる情報交換や方向性の共有などの話し合いに作業療法士も一緒に参加し,専門的立場からの意見,現場の支援者への支持的な働きかけ等を行っていく.4.結果
 これまでに9件の問い合わせがあり,うち支援を開始したのは4件,現在支援中は1件である.現在,新たな問い合わせもあり,少しずつ広がりを見せている.支援開始につながらなかった理由として,Go-Go-OT-Netでは支援開始に至るまでに対象者の状態変化による中止,施設側がGo-Go-OT-Net利用の必要性を感じているものの,施設側の理由によって利用に至らないなどが挙げられる.支援中止となった理由として,対象者の状態悪化による入院,残念ながら施設を退所するといったことがみられた.継続しているケースについては,施設側スタッフとの情報交換,連携がうまくとれていること,対象者本人も担当作業療法士との関係性が築け,定期的に会うことに意欲的であることなどの要因が考えられる.5.考察
 Go-Go-OT-Netのメリットとして,普段対面の関係性の中では話せないこともオンラインという仮想現実だからこそ話しやすく,日頃の悩みや将来の希望など,Go-Go-OT-Netの関わり中で明らかになることも多い.また,支援者への働きかけによって,支援者同士がお互いのストレングスを確認できる,疲弊しがちな対象者支援に対して,支援者自身がエンパワメントされるようなメリットがあると考えられる.一方,デメリットとしては,オンラインという特性上,依頼者,対象者の確保が難しい点,作業療法士も有志で行っているため,その確保が難しい点にある.Go-Go-OT-Netの活動をさらに広げていくためには,携わる作業療法士の確保や依頼者,対象者がアクセスしやすいシステム作りが課題であると考える.対象者が触法行為に至らず安定した生活を継続するためには,社会や人との「つながり」が大切であり,Go-Go-OT-Netは,その一助になることが期待できると考える.