第57回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-5] ポスター:精神障害 5

Fri. Nov 10, 2023 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PH-5-6] 積極的な治療参加につながった双極性感情障害患者の心理教育

前村 英葵1, 柳田 信彦2, 中山 優紀1, 宮城 幸佑3, 佐藤 大輔4 (1.メンタルホスピタル鹿児島診療技術部 リハビリテーション科, 2.鹿児島大学 医学部保健学科, 3.メンタルホスピタル鹿児島在宅支援部 B型就労支援事業所, 4.メンタルホスピタル鹿児島診療部)

【はじめに】近年,精神科医療において薬物療法と併せて非薬物療法の重要性が高まっている.稲本(2014)は,精神科医療の急性期化・複雑多様化に伴い,様々な治療接近技法が模索検討され,そのうちのひとつである心理教育が,退院支援や地域生活支援のツールとして注目されてきていると述べている.今回,双極性感情障害で長年に渡り入退院を繰り返す症例に対して作業療法の一環として心理教育を行う中で病気に対する知識の獲得,薬と服薬に対する理解を中心に問題解決の検討を行う機会を提供することで,治療全般に対して主体的な参加に繋がったため考察を交えて報告する.
【方法】
1.心理教育:R3年7月~R3年11月  2時間・全10回・小集団(対象者2名)
       疾病・薬剤情報の提供,ストレスマネジメント
2.評価内容(心理教育実施前後):
①疾病・薬剤知識や態度に関する評価:DAI-10,KIDI,BARS ②自己効力感:GSES
③社会的・心理的・職業的機能:GAF ④注射に関するアンケート
4.職種:作業療法士,薬剤師,公認心理師,精神保健福祉士,ピアサポーター
【倫理的配慮】研究に際して,対象には研究について口頭で説明し,協力への同意を書面にて得ている.また演者が所属する病院の倫理審査委員会にて承認を得ている.
【対象者】診断名:双極性感情障害  性別:男性  年齢:70歳代
現病歴等:10歳代後半で双極性感情障害を発症し,当院へ10数回の入退院歴あり.躁状態とうつ状態を繰り返し,過去には自殺企図の経験もある.X年,訪問看護,DC利用していたが,長男の悪性リンパ腫罹患を契機に抑うつ状態で希死念慮も認め,当院へ医療保護入院となる.入院後は高揚傾向となり,他人に対して多弁・過干渉,易怒性が見られ,トラブルになることがある.さらに女性スタッフに対する色情言動がある.一方,抑うつ状態では活動性低下が著明であり,臥床傾向となる.
【心理教育】退院準備支援として,多職種による心理教育を導入した.疾病・薬剤情報の提供,ストレスマネジメントなどへの取り組みを通して,他メンバーやピアサポーターの体験を共有できており,「薬について詳しく聞いたことがなかった」,薬剤師に対しては「自分に合うデポ剤はあるのか」など治療に積極的な発言が増えた.実施後の病棟生活では,自発的に主治医へ薬の相談を行い,服薬自己管理を開始している.
【評価結果】心理教育実施前後において,DAI-10(+8⇒+8)と,KIDI(18/20点⇒19/20点)であった.BARSにて事前回答では服薬の内訳に「わからない」と記入したが,事後回答では薬剤名,使用量ともに正答しており,注射に関するアンケートでは注射と飲み薬の効果比較に正しい理解を示し,デポ剤の使用を希望するという結果になった.GSES(1/16点⇒10/16点)と向上が見られ,GAFに著変はなかった.
【考察】心理教育開始前の症例は,退院を意識しているが退院後の生活がイメージできず,漠然とした不安を抱えていた.包括的支援として作業療法における心理教育を行い,他メンバーや多職種の関わりから疾病・薬剤情報を得るだけでなく,患者本人が必要な情報を選択することや取り組むべき具体的な行動を確認することができ,疾病に対する理解が深まり服薬アドヒアランス向上や主体的な治療参加に繋がったと考えられる.
当院の現状として,長期入院や入退院の多い入院患者は,自身の症状を振り返ることや薬剤に対する理解を深める機会が少ない.今後も作業療法を通してより多くの患者に心理教育を実施し,病気の理解や退院への不安軽減により退院後の再発の予防につなげていきたい.