第57回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-6] ポスター:精神障害 6

Fri. Nov 10, 2023 5:00 PM - 6:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PH-6-1] 現代の森田療法と作業療法の親和性についての考察

尾形 茜 (医療法人社団ほっとステーション大通公園メンタルクリニック・リワークオフィス)

【はじめに】
 森田療法と聞いて一般的にイメージされるのは入院森田療法(Impatient Morita Therapy : IMT)ではないだろうか.森田正馬(1874~1938)によって創案された森田療法は,神経症を主な対象として元々は入院した上での臥辱,軽重作業,そして生活訓練などを組み合わせた定式化された治療技法であった.しかし時代の変化と共に入院森田療法は次第に実施されなくなり,現代では外来での対話を通した外来森田療法(Outpatient Morita Therapy : OMT)が中心になっている.さらに我々はデイケアという枠組みの中での森田療法(Daycare Setting Morita Therapy : DSMT)を実践している.公益社団法人メンタルヘルス岡本記念財団によると,現在全国で森田療法を実施している施設は37ヶ所あり,そのうち32施設は外来療法専門となっている.また対象疾患も次第に拡がりを見せ,従来の森田神経質にとどまらず気分障害や心身症,がん患者のメンタルヘルスなど幅広く展開されている.
【目的】
 森田療法の考え方と作業科学や生活行為マネジメント(以下,MTDLP)の理念には類似点が多く,親和性も高い.それぞれの理論を踏まえたうえで利用者と関わることがより良い治療的介入に繋がると考え,その共通点を理解し臨床に活かしていくことを目的としている.
【考え方の親和性】
 森田療法では,不安や症状などの軽減を直接のターゲットとはせずに,“生の欲望”を発揮すべく建設的な行動を実践していくことが主眼とされている.ここで言う“生の欲望”とはその人にとっての価値や「~したい」という内的動機付けであり,建設的な行動は自他にとって意味のある作業といえる.不都合な要素を排除するのではなく“あるがまま”に行動していくことで,結果的に症状や感情との適切なディスタンスを保持し,自己の価値に沿った作業や生活の満足感に繋がっていく.この森田療法の考え方は,障害がありながらも自分に合った作業を行えるよう支援する作業療法の理念やMTDLPの「~したい」を元に1つの生活行為から活動,参加へと繋げていく流れとも類似している.また,この“あるがまま”は単に見ぬふりをする姿勢ではなく,行動に対する欲望と感情による働きかけを自然に発揮している状態(田所,2022)であり,その実現に効果的なものこそ,作業を行うこと自体が人間の本質に他ならず,さらには生存と健康に繋がっていくとする作業的存在の概念ではないだろうか.
【現場での実際】
 演者の勤務する復職支援デイケア(以下,当リワーク)では,個別面談のほかグループワークを中心とした心理教育やSST,運動や屋外活動,手工芸やゲームなどの作業活動といったプログラムを行っている.それらすべてに森田療法のエッセンスが根付いており,考え方や意識の変容を図るだけでなく日常生活への般化を目指した具体的な行動の指導や計画の立案,実践を行っている.不都合な感情がありながらも仕事や生活行為を行い自分らしく生きていくための具体的な工夫や行動指標を見つけていくことが当リワークの目標の一つとなっている.
【課題と展望】
 森田療法は,研究者や実践者をはじめ対象者の多くがその治療効果や可能性を実感している一方で,統計的なエビデンスについては僅少な状況が続いていた.しかし近年海外を中心にその研究は広がり,英国エクセター大学にて行われたランダム化比較試験(RCT)を用いたパイロット研究では,介入群において66.7%の回復と治療的反応が示されたという報告がされている.(Sugg et al,2018)
今後,その有効性を改めて明らかにしていくため,日々の臨床場面においても客観的な指標を用いた評価と分析を行っていく必要性がある.