[PH-6-6] 認知機能リハビリテーションとうつ病のためのメタ認知トレーニング(D-MCT)の併用プログラムの実践報告
【はじめに】
抑うつ気分や意欲低下といったうつ病で特徴的な症状には,認知や感情のバイアスが大きく関与し(岡本,2013),臨床場面でも,客観性に欠け,ネガティブな思考から抜け出せず,うつ病,およびうつ症状の再発・再燃に繋がる例も多い.当クリニックでは,自身で起こりやすい認知バイアスの基盤として,神経認知機能の問題があることに気がつき易くする事を狙いとし,認知矯正療法の1つであるNEARの一部と集団での認知行動療法の1つである“うつ病のためのメタ認知トレーニング(D-MCT)”を併用し行っている.今回は,その実践の紹介,およびメタ認知と抑うつに対する予備的な効果検証について報告する.なお,今回の調査に協力して頂いた対象者には書面にて同意を得た.
【方法】
プログラムは週1回,180分で実施し,10セッションを1クールとした.作業療法士2名で運営し,主治医と担当スタッフの推薦があり,本人も同意した場合に参加とした.各回の前半(90分)にNEARの言語セッションを行い,神経認知の説明,および就労と神経認知の繋がりがわかりやすい課題を実施した.後半(90分)にはD-MCT(初回のオリエンテーション,8つのモジュール,最終回のまとめ)を実施し,うつに特有の認知的傾向や対処法についての学習を行った.初回と最終回には自己評価式抑うつ尺度(SDS),メタ認知質問紙法短縮版(MCQ-30)を,最終回にはプログラムで印象に残ったこと,日常で意識していることなどを尋ねる自記式アンケートを実施した.
【結果】
これまでの参加者17名のうち80%以上出席したのは12名(71%)であった.開始時・終了時のデータに欠損がなかった11名を解析対象とした.対象の性別は男性8名,女性3名,年代は20代4名,30代1名,40代5名,50代1名,診断名はうつ病6名,双極性障害2名,自閉症スペクトラム症(ASD)3名,うつ病・ASD1名であった.開始時と終了時の尺度得点の比較では,MCQ-30の総合得点(p=0.022)と“心配事への積極的な信念(POS)”得点(p=0.027)が有意に減少していた.SDS得点(平均±SD)は51.0±5.9点から47.9±6.7点へと減少していたが,その差は有意傾向に留まっていた(p=0.055).また,自記式アンケートの印象に残った事,日常で意識している事の項目から「反すうは必要ないと気づけた」「視野の広め方,考え方の多様性を学べた」「帰属スタイルのバランスを変えていく」「思い違いを防ぐため,記録する事が重要だと思った」などの表記があった.
【考察】
MCQ-30の“心配事への積極的な信念(POS)”得点の有意な減少は,D-MCTでの帰属スタイルと出来事の捉え方,“結論への飛躍”への対処法,反すうのしくみについての学びから“心配したり深く考える事ではなく,出来事を客観的に捉え,情報を集めて判断することが適切な問題解決に繋がる”という気づきにつながった可能性がある.またアンケートにあった記述から「視野を広める方を学べた」と“選択的注意の関連”,「帰属スタイルのバランスを変えていく」と“記憶と問題解決能力の関連”,「思い違い防止のために記録する」と“記憶を定着させる方略や代償法の学び”が関連しており,NEARの一部とD-MCTの併用は,神経認知機能やその方略を学びながら,認知的傾向や対処法の獲得の部分に繋がり,理解が深まりやすくなると考えた.この点も含め,今後さらに対象者を増やし,検討していきたいと考えている.
抑うつ気分や意欲低下といったうつ病で特徴的な症状には,認知や感情のバイアスが大きく関与し(岡本,2013),臨床場面でも,客観性に欠け,ネガティブな思考から抜け出せず,うつ病,およびうつ症状の再発・再燃に繋がる例も多い.当クリニックでは,自身で起こりやすい認知バイアスの基盤として,神経認知機能の問題があることに気がつき易くする事を狙いとし,認知矯正療法の1つであるNEARの一部と集団での認知行動療法の1つである“うつ病のためのメタ認知トレーニング(D-MCT)”を併用し行っている.今回は,その実践の紹介,およびメタ認知と抑うつに対する予備的な効果検証について報告する.なお,今回の調査に協力して頂いた対象者には書面にて同意を得た.
【方法】
プログラムは週1回,180分で実施し,10セッションを1クールとした.作業療法士2名で運営し,主治医と担当スタッフの推薦があり,本人も同意した場合に参加とした.各回の前半(90分)にNEARの言語セッションを行い,神経認知の説明,および就労と神経認知の繋がりがわかりやすい課題を実施した.後半(90分)にはD-MCT(初回のオリエンテーション,8つのモジュール,最終回のまとめ)を実施し,うつに特有の認知的傾向や対処法についての学習を行った.初回と最終回には自己評価式抑うつ尺度(SDS),メタ認知質問紙法短縮版(MCQ-30)を,最終回にはプログラムで印象に残ったこと,日常で意識していることなどを尋ねる自記式アンケートを実施した.
【結果】
これまでの参加者17名のうち80%以上出席したのは12名(71%)であった.開始時・終了時のデータに欠損がなかった11名を解析対象とした.対象の性別は男性8名,女性3名,年代は20代4名,30代1名,40代5名,50代1名,診断名はうつ病6名,双極性障害2名,自閉症スペクトラム症(ASD)3名,うつ病・ASD1名であった.開始時と終了時の尺度得点の比較では,MCQ-30の総合得点(p=0.022)と“心配事への積極的な信念(POS)”得点(p=0.027)が有意に減少していた.SDS得点(平均±SD)は51.0±5.9点から47.9±6.7点へと減少していたが,その差は有意傾向に留まっていた(p=0.055).また,自記式アンケートの印象に残った事,日常で意識している事の項目から「反すうは必要ないと気づけた」「視野の広め方,考え方の多様性を学べた」「帰属スタイルのバランスを変えていく」「思い違いを防ぐため,記録する事が重要だと思った」などの表記があった.
【考察】
MCQ-30の“心配事への積極的な信念(POS)”得点の有意な減少は,D-MCTでの帰属スタイルと出来事の捉え方,“結論への飛躍”への対処法,反すうのしくみについての学びから“心配したり深く考える事ではなく,出来事を客観的に捉え,情報を集めて判断することが適切な問題解決に繋がる”という気づきにつながった可能性がある.またアンケートにあった記述から「視野を広める方を学べた」と“選択的注意の関連”,「帰属スタイルのバランスを変えていく」と“記憶と問題解決能力の関連”,「思い違い防止のために記録する」と“記憶を定着させる方略や代償法の学び”が関連しており,NEARの一部とD-MCTの併用は,神経認知機能やその方略を学びながら,認知的傾向や対処法の獲得の部分に繋がり,理解が深まりやすくなると考えた.この点も含め,今後さらに対象者を増やし,検討していきたいと考えている.