第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-6] ポスター:精神障害 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PH-6-8] 作業療法士を対象とした自殺対策・自傷行為に関する研修会の効果の検証

林 良太1, 岸 雪枝2, 川村 明代3, 湯川 徹4, 織田 靖史5 (1.関西医科大学リハビリテーション学部, 2.兵庫医科大学病院, 3.公益財団法人 浅香山病院, 4.ミーレ訪問看護ステーション, 5.県立広島大学)

【はじめに】本邦における年間の自殺者数は21007名であり,依然として少なくない(厚生労働省,2022).精神科の作業療法士(以下,OTR)は,臨床において自殺念慮や自傷行為のある人に接することを多々経験しているが,自殺や自傷行為の知識や評価について体系的に学ぶ機会がなかった(岸,2021).そこで,我々はLife And Happiness for People with Emotion regulation difficulties(以下,LAHPE)研究会を立ち上げて,OTRを対象とした自殺と自傷行為についての講義やグループワーク,効果的な対応などのロールプレイから構成される研修会を実施し,その効果を検証することとした.
【目的】本研究では,OTRを対象とした自殺や自傷行為に対する研修会が,OTRの自殺についての知識や態度,自殺予防における自己効力感にどのような影響を与えるのか検証することを目的とする.
【方法】対象者は,LAHPE研究会の研修会を受講したOTR30名(男性11名,女性19名,年齢36.0±7.2才)とした.データ収集期間は2019年3月から2020年2月とした.倫理的配慮として,対象者には説明後,書面にて同意を得ており,得られたデータは匿名化されて,個人は特定されないよう配慮した.研修会の実施者は自殺や自傷行為を専門とするOTR3名であり,研修会の内容は,日本医療機能評価機構の「院内自殺の予防と事後対応のための研修会」を参考に,体系化して実施した.評価項目は,研修会の前後において知識の評価である「自殺対策について12の質問(以下,12の質問)」,態度の評価である「医療従事者の自殺予防に対する態度測定尺度(以下,ASP-J)」,自己効力感の評価である「自殺予防におけるゲートキーパー自己効力感尺度(以下,GKSES)」を実施した.統計解析は,正規性の検定後,評価項目それぞれにおいて研修会前後での差を検討するために対応のあるt検定を用いて,効果量はrを用いて算出した.有意水準は5%とし,統計解析ソフトウェアはSPSS(ver.26)を用いた.
【結果】12の質問において,研修会前は9.3±1.8で,研修会後は10.1±1.0と有意に増加しており,効果量は中程度であった(t=-3.0, p<0.01, r=0.48).ASP-Jにおいて,研修会前は29.8±5.8で,研修会後は26.1±4.8と有意に改善がみられ,効果量は大程度であった(t=7.1, p<0.01, r=0.80).GKSESにおいて,研修会前は27.6±9.9で,研修会後は38.3±8.2と有意に増加しており,効果量は大程度であった(t=-10.7, p<0.01, r=0.89).
【考察】LAHPE研究会の自殺や自傷行為に対する研修会は,自殺の知識や態度,自殺予防における自己効力感を向上することが示唆された.川島(2012)らは,自殺予防の講義型と実習型の研修会についての重要性を述べており,本研究においても研修会で講義と実習の両方を実施した.その結果,自殺の知識のみならず,態度や自己効力感にも改善がみられた可能性が考えられる.また,森田ら(2015)は,自殺は対応困難と捉えられがちで,効果の指標として自己効力感が重要であると述べており,本報告において研修会が対象者の自己効力感に影響を与えた点が有用的であると考えた.