[PH-7-6] 園芸を通して長期入院患者の地域移行につながった一例
【はじめに】今回,約7年半の長期入院後,退院した事例について,精神科作業療法(以下,OT)と精神科デイケア(以下,デイケア)の両方で関わる機会を得た.入院中に興味を持った園芸をきっかけにデイケアにつながり,安定した地域生活の一助となった.以下に報告する.
【事例紹介】A氏,40代男性,統合失調症,自閉スペクトラム症.両親と同居.同胞なし.大学院修了後,X-3年にシステムエンジニアとして就職.X年,統合失調症と診断され,幻覚妄想状態にて他院に入院となる.退院後,X+1年に当院に短期間入院したが,その後外来通院を継続していた.X+11年幻聴が悪化,行動にまとまりがなくなり精神科救急入院料病棟に任意入院となる.X+12年,精神療養病棟(以下,療養病棟)に転棟する機会にOTが処方された.なお発表に際し,書面にて本人の同意を得ている.
【初期評価】幻聴など陽性症状があり,「幻聴がなくなるまで退院は難しい.」と話す.環境変化に弱く,退院への不安が大きかった.ADL・IADLは自立.コミュニケーション面においては,職員とは用件のみ話し,他患者との交流もなかった.
【経過】X+13年に,担当変更で筆者が担当作業療法士(以下,OTR)となった.園芸では30分以上集中して,収穫などの作業を行った.「おもしろかった.また参加したい」と話した.その後,症状悪化のため,数回閉鎖病棟に転棟となる.約1年半OTは中止となる.
X+15年,自己効力感を測定する一般性セルフエフィカシー尺度(以下,GSES)得点は50,気分プロフィール検査 第2版 (以下,POMS2)のTMD得点は56であった.療養病棟に転棟し,園芸では自分専用のプランターで本人が選んだナスを栽培した.「自分で育てたものを収穫して食べるのが楽しい.」と話した.また「前は幻聴がなくなるのが,治ることだと思っていましたが,今は薬を飲みながらうまくやっていけることと思います.」と,病気に対する意識が変化した.この頃から園芸以外のプログラムにも参加するようになった.
X+16年,症状悪化のため転棟を繰り返したり,他患者や病棟職員とのコミュニケーションが難しいことも目立っていた.園芸ではOTR以外,他者と話すことは少なかったが,穏やかに過ごせていた.また,「ゴールは退院.」と話した.
X+18年,OTRがデイケアへの異動後,A氏の退院後の日中活動の必要性を考慮し,デイケアの情報提供を行うと,「園芸ができるなら行きたい.」と話す.その後自宅へ退院し,デイケアでは再びOTRが担当となった.
【結果】退院後,外来診察と週2回のデイケア通所を継続し,幻聴は残存しているものの病気との折り合いをつけ,3ヶ月間症状悪化することなく地域生活を継続している.園芸では他者から声をかけられると穏やかに対応するようになった.また「園芸は知識が増えるのが嬉しい.」と話す.GSES得点は60に変化し,自己効力感が向上したと言える.またPOMS2のTMDは50に変化し,気分が改善したと言える.
【考察】園芸という楽しみながら主体的に取り組める作業活動が,自己効力感や気分の向上の一助となった.主体性に価値を置いているA氏にとって,意味のある作業を中心とした「健康的な側面」に着目してアプローチすることで,対象者の自己効力感を向上させ,より主体的な生活を送る姿勢を醸成させた(南,2019)と考える.また他者との円滑なコミュニケーションが難しいA氏にとって,侵襲性の低い園芸活動が安心感をもたらし(山根,2017),緩やかな対人交流が築けるようになった可能性がある.また地域移行の過程において継続的にOTRが支援できたことも,環境変化に弱いA氏に安心感をもたらしたと考える.
【事例紹介】A氏,40代男性,統合失調症,自閉スペクトラム症.両親と同居.同胞なし.大学院修了後,X-3年にシステムエンジニアとして就職.X年,統合失調症と診断され,幻覚妄想状態にて他院に入院となる.退院後,X+1年に当院に短期間入院したが,その後外来通院を継続していた.X+11年幻聴が悪化,行動にまとまりがなくなり精神科救急入院料病棟に任意入院となる.X+12年,精神療養病棟(以下,療養病棟)に転棟する機会にOTが処方された.なお発表に際し,書面にて本人の同意を得ている.
【初期評価】幻聴など陽性症状があり,「幻聴がなくなるまで退院は難しい.」と話す.環境変化に弱く,退院への不安が大きかった.ADL・IADLは自立.コミュニケーション面においては,職員とは用件のみ話し,他患者との交流もなかった.
【経過】X+13年に,担当変更で筆者が担当作業療法士(以下,OTR)となった.園芸では30分以上集中して,収穫などの作業を行った.「おもしろかった.また参加したい」と話した.その後,症状悪化のため,数回閉鎖病棟に転棟となる.約1年半OTは中止となる.
X+15年,自己効力感を測定する一般性セルフエフィカシー尺度(以下,GSES)得点は50,気分プロフィール検査 第2版 (以下,POMS2)のTMD得点は56であった.療養病棟に転棟し,園芸では自分専用のプランターで本人が選んだナスを栽培した.「自分で育てたものを収穫して食べるのが楽しい.」と話した.また「前は幻聴がなくなるのが,治ることだと思っていましたが,今は薬を飲みながらうまくやっていけることと思います.」と,病気に対する意識が変化した.この頃から園芸以外のプログラムにも参加するようになった.
X+16年,症状悪化のため転棟を繰り返したり,他患者や病棟職員とのコミュニケーションが難しいことも目立っていた.園芸ではOTR以外,他者と話すことは少なかったが,穏やかに過ごせていた.また,「ゴールは退院.」と話した.
X+18年,OTRがデイケアへの異動後,A氏の退院後の日中活動の必要性を考慮し,デイケアの情報提供を行うと,「園芸ができるなら行きたい.」と話す.その後自宅へ退院し,デイケアでは再びOTRが担当となった.
【結果】退院後,外来診察と週2回のデイケア通所を継続し,幻聴は残存しているものの病気との折り合いをつけ,3ヶ月間症状悪化することなく地域生活を継続している.園芸では他者から声をかけられると穏やかに対応するようになった.また「園芸は知識が増えるのが嬉しい.」と話す.GSES得点は60に変化し,自己効力感が向上したと言える.またPOMS2のTMDは50に変化し,気分が改善したと言える.
【考察】園芸という楽しみながら主体的に取り組める作業活動が,自己効力感や気分の向上の一助となった.主体性に価値を置いているA氏にとって,意味のある作業を中心とした「健康的な側面」に着目してアプローチすることで,対象者の自己効力感を向上させ,より主体的な生活を送る姿勢を醸成させた(南,2019)と考える.また他者との円滑なコミュニケーションが難しいA氏にとって,侵襲性の低い園芸活動が安心感をもたらし(山根,2017),緩やかな対人交流が築けるようになった可能性がある.また地域移行の過程において継続的にOTRが支援できたことも,環境変化に弱いA氏に安心感をもたらしたと考える.