第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-8] ポスター:精神障害 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-8-3] 秋田大学医学部附属病院における開設から2年の精神科作業療法の効果検証

林 正喜1, 千田 聡明1, 久米 裕2, 吉沢 和久3, 三島 和夫3 (1.秋田大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻作業療法学講座, 3.秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系精神科学講座)

【序論】
本学附属病院では精神科作業療法の新設から2年が経過し,急性期の精神疾患を対象として早期の社会復帰を目指した精神科作業療法を展開してきた.急性期の対象者に対する定期的な臨床評価の結果は地域移行した後の予後予測やクライシスプラン作成へ応用でき,かつ精神科作業療法の効果を検証するために不可欠な情報である.本研究の目的は,当院精神科病棟に入院する対象者における日常生活の機能障害,QOL,認知機能に対する精神科作業療法の効果を予備的に検証することである.
【方法】
本研究のデータ収集期間は2021年2月8日から2022年10月31日であった.分析対象は精神科作業療法が処方された入院患者とした.対象者の入退院時に,(1) Sheehan Disability Scale日本語版(以下,SDS),(2)日本語版EuroQol-5Dimention-5Level (以下,EQ-5D-5L),(3)統合失調症認知機能簡易評価尺度日本語版(以下,BACS-J)により評価した.分析対象は,入退院時の評価結果に欠損値がない評価指標に応じて,SDSの32名,EQ-5D-5L index valueの31名,BACS-Jの17名であった.作業療法のプロセスとして,リハビリテーション計画書に基づいた面接を行った後,治療目標が対象者本人と協働して設定された.精神科作業療法の実施頻度は8単位/週を基本とし,実施内容は手工芸,運動療法から構成された.参加頻度や参加する集団形態(個別または集団作業療法)は状態に応じて個別に調整された.多職種によるチームカンファレンスは入院時,精神科作業療法開始の2週間後,退院時の計3回実施され,治療経過や治療方針が定期的に確認された.
統計学的検討として,入退院時の評価指標(1)~(3)を比較するために,Wilcoxonの符号付順位検定が実行された.統計処理にはIBM SPSS Statistics 27.0が使用され,統計学的有意水準は5%に設定された.倫理的配慮として,本研究の対象者に対して口頭で研究の目的や方法を説明し同意が得られた.
【結果】
分析対象数は50名であり,対象の平均年齢±標準偏差は51.7±18.3歳,平均在院日数は61.0±40.1日であった.ICD-10(国際疾病分類)に準じて,F3(気分障害)が35名であった.入院および退院時の比較結果より,SDSスコア(介入前の中央値[四分位範囲]:22.5[9]点,介入後:15.0[13]点)が有意に低下(p<0.01)し.EQ-5D-5L index value(介入前:0.563[0.226],介入後:0.740[0.192])が有意に向上した(p<0.01).また,BACS-J総合点(介入前:-2.36[2.44],介入後:-2.18[3.05]),BACS-J下位項目のトークン課題(介入前:-3.99[2.60],介入後:-2.69[1.43]),ロンドン塔課題(介入前:-0.38[2.09],介入後:0.08[1.23])のZスコアは退院時評価において有意に向上した(p<0.05).
【考察】
本研究の結果より,入院対象者における日常生活の機能障害,QOL,認知機能障害に対する精神科作業療法を含めたチームアプローチの効果が予備的に実証された.SDSスコアの改善では,睡眠を含む何らかの精神的な問題による仕事,社会生活,家庭内のコミュニケーションへの支障が軽減されていた.また,EQ-5D-5LによるQOL状態では,「移動」「セルフケア」「普段の活動」「痛み・不快感」「不安・抑うつ」に関する下位項目の改善が観察された.さらに,BACS-Jによる認知機能評価では,総合点をはじめとする運動機能や実行機能の改善が認められた.これらの結果に応じて,環境調整,薬物療法にOTを組み合わせることで,当院ではごく短期間の介入でも社会・認知機能の有意な改善が得られた.本研究の結果は環境調整や薬物療法の効果が重畳しての結果であり,学習効果やサンプルバイアスの可能性も否定できないため,精神科作業療法への参加の是非に関するさらなる検証が望まれる.