第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-8] ポスター:精神障害 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-8-4] 精神科医療機関と作業療法の一般就労支援における課題と役割についての考察

藤井 恭平, 早朝 一輝, 龍野 竹千代 (社会医療法人 養生園 TAOKAこころの医療センター)

【はじめに】
精神障害者の一般就労はリカバリーに繋がる要因として注目されている.また,障害者の法定雇用率の上昇に伴い,精神障害者の一般就労は増加しているが1年での職場定着率は50%以下である(障害者職業総合センター,2017).デイケアが公共職業安定所(以下;ハローワーク)と共に就労支援に取り組むことは定着率を上昇させる(Kawanoら,2022)が,ハローワーク障害者相談窓口における精神障害者の就職件数のうち,精神科医療機関(以下;医療機関)が連携した事例は3.6%であり(相澤ら,2010),連携が十分に取れているとは言い難い.当院の外来診療の場においても,一般就労希望者(以下;対象者)には就労支援機関(以下;支援機関)を紹介するに留まっており,医療職の介入もない.そこで当院では,多職種による一般就労支援に関するワーキンググループを立ち上げ,支援機関との連携や支援方法における課題や役割について検討を行っている.今回,支援機関へインタビュー調査を行い,その結果を基に医療機関と作業療法の役割について考察した.
【目的】
支援機関へのインタビュー内容を分析し,医療機関との連携や支援方法における課題を探索し,医療機関と作業療法の役割を考察することである.
【方法】
対象は障害者雇用促進法に規定されている機関とし,ハローワーク,地域障害者職業センター,障害者就業・生活支援センターで精神障害者の対応を行っている者とした.質問内容は半構造化し,主な質問内容は医療機関との連携の実際,就労定着の支援における課題,医療機関に求めることであった.インタビューに対する回答を文字に起こし分析した.分析にはSCAT(Step for Coding and Theorization)を用い,理論的記述を行った後,各カテゴリーに分け,概念を抽出した.尚,本報告に際し,対象援機関の同意を得た上で当院の倫理審査委員会の承諾を得ている.
【結果】
カテゴリーとして『情報共有の課題』『定着支援の焦点』『医療機関の役割』の3つに分けられた.『情報共有の課題』では“客観的情報の不足”“情報共有方法の不確実さ”“敷居の高さ”の概念が,『定着支援の焦点』では“合理的配慮の決定援助”“治療内容や自己理解の促進”“障害受容の支持”の概念が挙げられた.『医療機関の役割』では“対人関係スキルの訓練”“職場訪問などのアウトリーチ”“詳細な情報共有方法の確立”“障害非開示者への支援”が概念として挙げられた.
【考察】
連携の実際として,主治医の意見書による情報提供は行われているが,限られた情報量であり,客観的情報が不足していた.その結果,対象者の発言のみが判断材料となり,適切なマッチングに繋がっていないケースもあることが分かった.当院でも対象者に対する多職種のアセスメントや情報共有方法は確立していない.敷居の高さも影響し,支援機関側も院内の誰に繋がればよいのか分からないため,情報の不足という現象が起きているのではないかと考えられる.医療機関には,支援機関がアクセスしやすく,双方の専門的情報を共有するシステムの確立が必要であると考えられた.また,作業療法の役割としては,対象者の長所・短所を把握し,就労において必要なスキルの訓練や,長所を活かす,もしくは短所を補っていく方法(合理的配慮)や環境の探索などを通して自己理解の促進や障害受容に貢献していくことが考えられた.アウトリーチに関しては診療報酬の影響による限界もあり,詳細な限界設定と支援機関との密な連携が望まれる.