第57回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-8] ポスター:精神障害 8

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PH-8-5] 妄想状態で投身して頚髄損傷を受傷した患者への,自宅退院を目指した介入

亀田 南美1, 鈴木 淳一1, 奥出 聡1, 濱田 賢二1, 加藤 英之2 (1.平川病院リハビリテーション科, 2.平川病院)

【はじめに】今回妄想に支配されて高所より投身し,頚髄損傷によってADLが全介助となった後,精神科病院で身体リハビリテーション(以下「リハ」)を行い退院に至った症例を経験した.リハの経過と身体障害領域の作業療法士(以下「OT」)の介入について考察を加え報告する.
【説明と同意】本発表に際し,本人に口頭と書面で説明し同意を得た.また,当院倫理委員会の承認を得た.
【症例紹介】(患者)30代,男性(精神科診断)急性統合失調症様精神病性障害(身体診断)第6頸椎破裂骨折,第5~6頸椎右椎間関節片側脱臼,C5レベルでの脊髄損傷(両上肢不全麻痺,両下肢全麻痺,膀胱直腸障害),左膝関節破裂骨折(現病歴)X-119日「何かから逃げるため」5mの高さから投身して受傷し,A病院に搬送された.X-74日,高度医療施設であるB病院に転院.X-58日,頸椎前方固定術を受けた.同院では気分や意欲のムラが見られ,身体治療と並行して精神科治療も可能な病院への転院を勧められた.X日,当院転院.
【作業療法評価と方針】妄想の再燃はなく疎通良好.Frankel分類A,Zancolliの分類C6A.日常生活動作はFIM46点,BI0点.脊髄損傷に伴う起立性低血圧が強く起き上がり困難.膀胱直腸障害に対する尿道カテーテル持続留置が必要.主介護者となる両親が高齢であることも考慮し,身体機能向上・ADL拡大によって介助量を軽減させ自宅退院することを目標としてリハを開始した.
【経過】入院前半は食事動作自立に向けて言語聴覚士と協働し,食形態に応じた食具の設定やユニバーサルカフの装着練習を行った.理学療法士とも協働し,食事が車椅子上で行えるよう離床・座位保持訓練を行った.リハの進行に伴い頭痛等の身体愁訴が出現したが,OTは重度身体障害の不安に共感・支持的姿勢を示しつつも,身体愁訴や甘えに対して時には毅然とした指導的態度を示し,依存がOTに向かないよう留意した.その対応が功を奏し,リハは停滞することなく進んだ.X+85日には車椅子上での食事はカフの着用も含めて自立した.入院後半は本人の独特なこだわりや認知の偏りから退院希望が急速に強まり,一方的に退院を要求するようになった.思い通りにすぐ退院できないと両親に対する暴言を吐くこともあった.OTは引き続き気持ちを傾聴しながら家族・関係者を交えた面談を繰り返し,家屋評価や社会資源の導入など必要な環境調整を進めた.退院直前にはリフターとリクライニング車椅子のデモンストレーションを実施し,移乗・食事・排泄の介助方法を両親に指導した.X+268日,自宅退院.
【結果】血圧の動揺性は残存したが,リクライニングや下肢挙上の対応で離床時間は延長.寝返りは軽介助で,端坐位保持は6分程度可能.食事動作は自助具の着脱を含め自立しFIMは52点,BIは20点まで向上した.家族への介護動作指導と環境調整によって自宅退院を達成した.
【考察】精神科病院におけるOTの役割は,精神面への配慮をしながら身体機能・ADL向上に寄与することである.またリハの中で精神・身体両面からの全人的なアプローチを行い,生活に対する包括的な介入ができることが強みである.本症例においては,OTが中心となって多職種をリードしながら協働し,本人の特性に配慮しつつ家族も含めて指導することで退院までの道筋をつけた.OTの存在価値の大きさを示す非常に有意義な経験であった.