[PH-8-6] 精神科長期入院患者を対象としたIllness Management and Recoveryの実践報告
【はじめに】精神科長期入院患者の退院支援や社会的復権は本邦の精神科医療における重要な課題である.我々はリカバリー概念に基づいた心理社会的介入プログラムであるIllness Management and Recovery(以下,IMR)を通じて,精神科長期入院患者の地域移行やその人らしい生活の実現を支援してきた.今回はその実践について考察を加えて報告する.
【目的】本報告の目的は,精神科長期入院患者を対象としたIMRの取組みを紹介し,5年間の実践から得られた知見をまとめ,今後の課題を検討することである.
【方法】IMRは週1回60分実施した.対象は1年以上の入院を継続する患者のうち,IMRへの参加を希望した者とした.スタッフはリカバリー支援に関する院内研修会を修了した作業療法士,看護師が担当した.IMRの前後には対象者のリカバリーに向けたスタッフの役割や支援について協議する場を設けた.さらにリカバリー目標やスモールステップの達成状況を対象者が自己評価し,スタッフと共有するためのシートを用いることで,成果の可視化や課題の抽出,および支援者間の情報共有のためのツールとなるよう工夫した.また,対象者のチャレンジに対する肯定的なフィードバックや動機付けのための声かけを病棟スタッフに依頼した.本報告におけるデータの開示は当該施設の規則に基づき倫理的事項を遵守し,対象者に対しては報告の趣旨を説明し同意を得ている.COI状態はない.
【結果】IMRは2016年2月〜2022年2月の期間で計4クール実施し,1クールあたりの平均実施回数は52.3回であった.対象者は計25名で,病名は統合失調症22名・気分障害2名・その他1名,平均年齢は59.9±9.3歳,平均入院期間は129.2±92.0ヶ月だった.対象者のIMR修了率は92.0%で,「病気とうまく付き合う方法を学ぶことができた」「病気があっても自分のやりたいことができることが分かった」などの感想が聞かれたほか,スタッフからは「今までの入院環境では患者の持つ力を発揮する機会がなかったことがわかった」「対象者の強みを捉えられるようになった」などの意見が聞かれた.IMR修了者のうち6名が退院を実現し現在も地域生活を継続しており,他対象者も地域移行に向けた準備を進めている.
【振り返りと考察】我々は精神科長期入院患者にIMRを実施することで,失われた主体性や意欲が引き出され生活に変化をもたらすのではないかと考えた.本取組みでは多職種で協議する場を定期的に設け,リカバリーに向けた対象者への支援が病院全体で行われるよう工夫した.そのなかで作業療法士はリカバリープロセスを細分化し,より実現可能な方法を患者の能力や環境から予測し助言する立場として対象者やスタッフに関わることが重要であった.また,対象者はIMRへの参加を通して病気を自己管理する能力を身につけ,スタッフの声かけや賞賛を受けながらスモールステップを達成していった.対象者の経過は様々であったが,共通していたのは「できる」という自己有能感の回復であった.自己の存在意義や価値を取り戻していく「自己有能感」の回復プロセスは,精神障害者の自己の再構築のプロセスでもあり,ひいては社会とつながり地域生活を可能にしていく重要なプロセスである(余傳ら,2019).本取組みより,IMRは精神科長期入院患者の地域移行や自分らしい生活の実現を支え,リカバリーを促進する可能性が示唆された.最後に,本取組みにおいて患者に対するスタッフの認識がIMRへの参加を通じてポジティブな方向へと変化していた.今後はスタッフのリカバリー志向性の促進・阻害要因を探索し,リカバリーを促進する人材育成のあり方についても検討していきたい.
【目的】本報告の目的は,精神科長期入院患者を対象としたIMRの取組みを紹介し,5年間の実践から得られた知見をまとめ,今後の課題を検討することである.
【方法】IMRは週1回60分実施した.対象は1年以上の入院を継続する患者のうち,IMRへの参加を希望した者とした.スタッフはリカバリー支援に関する院内研修会を修了した作業療法士,看護師が担当した.IMRの前後には対象者のリカバリーに向けたスタッフの役割や支援について協議する場を設けた.さらにリカバリー目標やスモールステップの達成状況を対象者が自己評価し,スタッフと共有するためのシートを用いることで,成果の可視化や課題の抽出,および支援者間の情報共有のためのツールとなるよう工夫した.また,対象者のチャレンジに対する肯定的なフィードバックや動機付けのための声かけを病棟スタッフに依頼した.本報告におけるデータの開示は当該施設の規則に基づき倫理的事項を遵守し,対象者に対しては報告の趣旨を説明し同意を得ている.COI状態はない.
【結果】IMRは2016年2月〜2022年2月の期間で計4クール実施し,1クールあたりの平均実施回数は52.3回であった.対象者は計25名で,病名は統合失調症22名・気分障害2名・その他1名,平均年齢は59.9±9.3歳,平均入院期間は129.2±92.0ヶ月だった.対象者のIMR修了率は92.0%で,「病気とうまく付き合う方法を学ぶことができた」「病気があっても自分のやりたいことができることが分かった」などの感想が聞かれたほか,スタッフからは「今までの入院環境では患者の持つ力を発揮する機会がなかったことがわかった」「対象者の強みを捉えられるようになった」などの意見が聞かれた.IMR修了者のうち6名が退院を実現し現在も地域生活を継続しており,他対象者も地域移行に向けた準備を進めている.
【振り返りと考察】我々は精神科長期入院患者にIMRを実施することで,失われた主体性や意欲が引き出され生活に変化をもたらすのではないかと考えた.本取組みでは多職種で協議する場を定期的に設け,リカバリーに向けた対象者への支援が病院全体で行われるよう工夫した.そのなかで作業療法士はリカバリープロセスを細分化し,より実現可能な方法を患者の能力や環境から予測し助言する立場として対象者やスタッフに関わることが重要であった.また,対象者はIMRへの参加を通して病気を自己管理する能力を身につけ,スタッフの声かけや賞賛を受けながらスモールステップを達成していった.対象者の経過は様々であったが,共通していたのは「できる」という自己有能感の回復であった.自己の存在意義や価値を取り戻していく「自己有能感」の回復プロセスは,精神障害者の自己の再構築のプロセスでもあり,ひいては社会とつながり地域生活を可能にしていく重要なプロセスである(余傳ら,2019).本取組みより,IMRは精神科長期入院患者の地域移行や自分らしい生活の実現を支え,リカバリーを促進する可能性が示唆された.最後に,本取組みにおいて患者に対するスタッフの認識がIMRへの参加を通じてポジティブな方向へと変化していた.今後はスタッフのリカバリー志向性の促進・阻害要因を探索し,リカバリーを促進する人材育成のあり方についても検討していきたい.