第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-8] ポスター:精神障害 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-8-7] 精神科病院での積極的な疾患別リハビリテーション介入により,経管栄養から経口摂取へ移行した事例

伊藤 友希 (西八王子病院リハビリテーション科)

【はじめに】小山珠美(口から食べるリハビリテーション,2015)は『長期的な非経口栄養管理と活動低下は,さらなる認知機能低下,口腔汚染,摂食・嚥下機能低下,ADL低下という悪循環を来たす』としている.しかし,精神科病院に入院する患者に対し経口摂取を目指した文献は少ない.今回,コロナ後廃用によりベッド上にて両上肢抑制・経鼻経管栄養管理となり覚醒不良や活動性低下をきたした症例に対し,嚥下訓練を中心とした介入を実施した結果,経口摂取や離床時間の拡大につながった.経口摂取は患者の活動意欲や生きがいにつながると考察したため,今後の介入の一助となると考え以下に報告する.尚,報告に際し本人および家族に口頭で説明し書面にて同意を得た.
【事例紹介】A氏,70歳代女性.躁うつ病にて6年前より当院に入院していたが,X年Y月COVID-19に罹患.感染対策のため病棟が閉鎖され Y+1月の病棟閉鎖解除に伴い作業療法再開となった.COVID-19罹患前はFIM53点(運動36点/認知17点),食事は3食経口摂取にて行っていたが,作業療法を再開した時点でFIM19点(運動12点/認知7点),経鼻経管栄養,自己抜去防止目的で両上肢抑制していた.一日中ベッドで過ごしているため覚醒不良であったが「ご飯が食べたい」「散歩に行きたい」というA氏の希望を実現するための介入を開始した.
【経過】介入前期:リラクゼーション,関節可動域訓練(以下ROM-ex)を実施し,全身の筋緊張緩和に努めた.嚥下訓練では,嚥下体操,発声訓練,口腔ケアを実施した.介入後期:初期の訓練に加えてベッド上での座位保持訓練,車椅子への乗車訓練を実施した.車椅子での座位保持可能後は,精神科作業療法部門と協力し精神科作業療法プログラム(以下OTプログラム)での離床も促した.また,嚥下機能のスクリーニングとして反復唾液嚥下テスト,改訂版水飲みテスト,ゼリーを用いたフードテストを実施.姿勢調整を行い,ゼリー・とろみ付き水分での訓練からソフト食での訓練へ段階付けを行った.食形態がソフト食に移行してからは,月に一度KTバランスチャート(以下KTBC)を用いて摂食・嚥下機能の定期的な評価を行い,内容を病棟と共有した.
【結果】時折むせこみはみられるものの,発熱や誤嚥性肺炎の兆候なく介助にて3食経口摂取可能となった.「食べられた」「美味しい」と笑顔がみられ,KTBCも向上した.さらにはリスク管理のため行っていた両上肢抑制を外すことができた.経口摂取開始から1か月ほど経つと「まずい」「普通のがいい」と普通食を希望するようになり,食思の低下もみられたが,ペースト粥を柔らかいパンに変えるなど工夫し6~7割ほど食べることができた.リクライニング車椅子にて中庭散歩やOTプログラムに参加するなど日中の離床時間拡大もみられ,「外に行きたい」「ホールに行きたい」など意欲的な発言が増えた.
【考察】経口摂取が可能となったことで「ご飯を食べたい」という患者のニーズを満たすことができ,食事という日々を過ごすうえでの楽しみを提供できたと考える.また,上肢抑制を解除したことで精神的な不快感が減少したと考える.また,車椅子での移動が可能となり活動の場が病室以外に広がったことや「散歩に行きたい」というニーズを満たせたことが,日中の活動意欲向上につながったと考える.精神病床の平均在院日数は299.8日と一般病床と比べ長い(厚生労働省,2022).長期の入院生活において「食べたい」という気持ちがありながらも「食べられない」患者に対し,適切な評価を行ったうえで積極的に介入していく必要があると考える.