第57回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-9] ポスター:精神障害 9

Sat. Nov 11, 2023 12:10 PM - 1:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PH-9-4] 神経性やせ症児をもつ家族に対する多職種連携集団家族心理教育

中野 未来1,2, 田中 佐千恵3, 白石 健1,4,5, 公家 里依5, 小林 正義3 (1.信州大学大学院総合医理工学研究科医学系専攻医学分野, 2.信州大学医学部附属病院リハビリテーション部, 3.信州大学医学部保健学科, 4.信州大学医学部附属病院精神医学教室, 5.信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部)

【目的】
 近年,小児の神経性やせ症(AN)が増加している.患児を取り巻く環境として家族の関わりは重要であるが,摂食障害患者の介護者は多くの負担を経験しており,不安と抑うつのレベルは高いとされている(Maria,2009).しかし家族心理教育に関する研究は少なく,アウトカムとして家族の健康度やQOLに焦点を当てた研究はほとんどない.本研究の目的は,AN児をもつ家族を対象に,多職種で集団心理教育を行い,抑うつ症状,QOLや家族の発言の変化を調査することである.本研究は本学医倫理委員会(4524)の承認を得た.
【対象と方法】
 2020年12月~2022年12月に当院の小児科・精神科・子どものこころ診療部を受診,または入院した19歳以下のAN児をもつ家族を対象とし,週1回,1回1時間の集団心理教育を4回実施した.各回は前半の講義と後半のフリートークで構成した.プログラム全体の司会と,フリートークのファシリテーターを作業療法士(OTR)が担い,医師,管理栄養士,臨床心理士が講師またはコ・ファシリテーターとして参加した.事前・事後評価として,家族の抑うつ状態(QIDS-J),QOL(SF-36),プログラム満足度(アンケート),児の標準体重比,フリートークでの発言を評価した.
【結果】
 参加者は母親8名,父親1名(平均47歳),祖母1名,祖父1名(平均71.5歳)の計11名,対象の児は9名(女性,平均14.7歳,入院5名,外来4名)であった.児の平均標準体重比(前→後)は72.9%→74%と漸増した.QIDS-J(標準偏差)は9.8(6.1)→7.9(5.7)とやや改善した.SF-36は心の健康が52.3(20.2)→57.2(19.3),精神的健康度が44.5(8.6)→45.7(9.8)と向上した.一方,身体的健康度は51.1(12.6)→50.0(6.8)と低下していたが,いずれの評価尺度も統計学的な有意差は認めなかった.事後アンケートでは,大変満足とやや満足が91%で,「病気について理解できた」「具体的な関わり方を知れた」「同じ病気の子供をもつ家族とのフリートークがとてもためになった」などが挙げられた.フリートークでは,第1回(ANについて)では家族同士の緊張が高く,講義内容や児の経過を振り返る発言が多かった.2回目(病気の経過・治療について)では「完治するのか」「児の考えは変えられるのか」と経過や治療についてそれぞれの職種に対して質問があり,OTRや心理士が質問に答えた.第3回(栄養・食事について)では家族同士の交流が増え,自然に話す様子が見られた.質問内容は,「料理の内容」「食べない時の声かけ」など具体的なものが多かった.第4回(家族の対応について)は「約束事をどのように設定するか」「頭で分かってもどう声をかけたら良いか分からない」と,児との関わり方についてより具体的な質問と不安が聞かれた.質問に対してスタッフが回答するだけでなく,他家族が意見を伝える場面も見られた.
【考察】
 事後評価で家族の抑うつ状態と精神的健康度は改善傾向を示し,集団家族心理教育により今後の見通しをもち,他家族との交流から“自分だけではない”と感じられたことが,家族の精神的健康度やQOLの向上に寄与したと考えられた.フリートークの話題は,全体を通して児への関わり方に関する不安や困り感が多く,家族の関心が最も高い事柄であることが分かった.これらの不安に対し,専門のスタッフの意見や他家族の実践的な意見を聞く機会の提供は家族心理教育の実践において非常に重要な要素と思われた.