第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-9] ポスター:精神障害 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-9-5] 精神障害者向け共同生活援助における生活行為向上マネジメントを用いた介入効果

鈴木 一広1, 小松 洋平2, 水野 高昌3 (1.さんすてっぷ, 2.西九州大学, 3.帝京平成大学)

【緒言】精神保健医療福祉領域においてMTDLPを用いた介入は,入院中の統合失調症者の社会生活能力改善とリカバリー意識を促進すること(高坂ら2019),訪問作業療法においてSMIの方々の社会機能を改善させること(Mashimo et al.2020)等が報告されている.共同生活援助(GH)への作業療法士(OT)の配置は91名であり(日本作業療法士協会2020),当該領域へOTの積極的な参入が期待されているが,配置による効果検証がなされた報告はない.
【目的】精神障害者を対象としたGHにおいて,OTがMTDLPを用いて介入を行うことが対象者のリカバリー意識,生活のしづらさや社会生活能力に及ぼす効果を明らかにすることを目的とする.
【方法】研究デザインは非ランダム化比較試験とし,対象事業所の選定はスノーボールサンプリングとした.介入をOT以外の職種が介入(a群), OTが介入(b群),OTがMTDLPを用いて介入(c群)として,割付はOT配置の有無とMTDLP研修受講歴等によって決定した.介入期間はそれぞれ6ヶ月間とした. 属性として基本情報を収集した.評価は日本語版RAS,WHO-DAS2.0,LASMIを用いて介入前後のデータを収集した.
主たる統計処理として反復測定分散分析を行い,時間と群間の主効果および交互作用を確かめた.交互作用が有意であった場合は事後検定を行った.統計処理にはJASP,Jamoviを使用し,有意水準を5%未満とした.
本研究は, A倫理審査会および各事業所の承認,対象者には書面で同意を得て実施した.研究資金はOT協会課題研究助成(2020-1)を受けた.
【結果】7事業所47名が最終解析対象者となった.ドロップアウトは全体5人(9.6%),a群2人(10.0%),b群2人(10.0%),c群1人(8.3%),うち理由が入院によるものは2人であった.
計画作成者情報及び対象者基本情報において,有意差はみられなかった.各尺度のベースラインの比較においては,LASMI持続性・安定性(p=.01, ε2=.19, a<c),目標に対する主観的な実行度(p=.04, ε2=.14, b<c)で有意差がみられた.
反復測定分散分析の結果,時間の主効果はLASMI 持続性・安定性,目標に対する主観的な実行度,満足度において有意差がみられた(F(1,44)=14.16,p<.01,η2=.07;F(1,44)=40.24,p<.01,η2=.15;F(1,44)=33.20,p<.01,η2=.11).群間の主効果はRAS 手助けを求めるのをいとわないことにおいて有意差がみられた(F(2,44)=3.54,p=.04,η2=.10,a>b).
介入前後と各群間の交互作用は実行度,満足度において有意差がみられた(F(2,44)=9.76,p<.01,η2=.07;F(2,44)=7.31,p=<.01,η2=.05).単純主効果検定の結果,実行度はa群とc群で介入後に平均スコアが上昇していた(F(1,44)=6.05,p=.02;F(1,44)=41.81,p<.01).また,満足度もa群とc群で介入後に平均スコアが上昇していた(F(1,44)=10.44,p<.01;F(1,44)=49.50,p<.01).
【考察】本研究の結果,対照群およびMTDLP群は目標に対する主観的な実行度と満足度を有意に高めることが明らかになった.GHにおける介入については通常の介入またはMTDLPを用いることが有用であり,OT配置だけでは実行度と満足度の改善に有効な効果が認められなかった.また,すべての群で介入前後の比較においてGHの利用は生活の安定性を高めた.精神病床を退院した患者の再入院率は退院後3か月で23%,6ヶ月で30%,1年で37%とされており(厚生労働省2018),今回の対象と単純な比較はできないが,より低い再入院率であったことからも安定性の向上に寄与していることが示唆される.