[PH-9-7] 統合失調症患者への身体リハ
【はじめに】
精神科作業療法は集団活動が主である.その為,身体的個別アプローチに時間を費やす事が難しい.そこで,当院では2017年より身体リハビリテーション(以下身体リハとする)を必要とする患者に個別介入を実施し,退院支援及び病棟におけるQOL向上に努めている.身体リハを実施している患者の中で,介入当初は受動的に取り組んでいたが徐々に意欲的・能動的に取り組むようになった患者がいた為,その意欲向上のプロセスを探っていく.また,症例報告にあたり本人から同意を得ている.
【対象および方法】
対象
1)対象者情報:A氏.70歳代女性.診断名:統合失調症.既往歴:腰椎圧迫骨折(Th12).現病歴:20歳代後半から陰性症状を主症状とし,B病院にて外来加療していたが,60歳代後半で纏らない言動や奇異行動が出現し,B病院に入院となる.その後,m-ECTを施行し,疎通が改善されたが,腰椎圧迫骨折によるADL低下と体動痛が出現.整形外科を受診するも手術適応なく対症療法となる.更なるADL改善や施設入所等の退院調整が必要となり,当院へ転院.2)身体リハ導入の経緯:ADL向上と立上り動作の再獲得を目標に身体リハ導入.3)初期評価:精神症状:抑うつ,感情失禁,依存的.姿勢:円背,立位時にふらつきがあり立位保持困難.移動:車椅子自走.ADL状況:入浴,更衣半介助.
方法
ADL向上と立上り動作の再獲得を目的に身体リハ開始.
介入初期週3回,立上り訓練,左右横歩き訓練を実施.介入3か月後週3回,立上り訓練,左右横歩き訓練,両下腿浮腫への徒手療法を実施.介入6か月後週3回,立上り訓練,抑速ブレーキ付き歩行車(以下歩行車とする)を使用した歩行訓練,両下腿浮腫への徒手療法を実施.
【結果】
身体リハの経過
介入初期1)本人の様子:感情失禁あり.スタッフとの些細な会話で涙を流す.体動痛がありベッド上で睡眠がとれず,夜間は車椅子上で入眠しており,両下腿浮腫著明.介入3か月後1)方法変更の経緯:介入初期よりも更に両下腿浮腫著明で看護師より作業療法士へ相談あり. ベッド上仰臥位ポジショニングを調整.翌日にA氏の両下腿浮腫軽快.それ以降,ベッド上で睡眠可能となる.2)本人の様子:感情失禁の頻度減少.「歩くの好き.今日も歩こうね.」という意欲的な発言や「眠れない日もあるけど横になれると楽なの.」等,前向きな発言が増える.体動痛の訴え減少.介入6か月後1)方法変更の経緯:立上り動作,左右横歩きが安定した為,手すりを用いた歩行訓練を実施.こちらも問題なく行えた為,歩行車を使用した歩行訓練に移行.2)本人の様子:見守りで歩行可能.身体リハ終了時「次はいつ来るの.」と意欲的な発言あり.また,「今度は歩行車を使わず自分で歩けるようになりたいね.」と前向きな発言もあり. 体動痛の訴え更に減少し,「今は痛くないの」と発言あり.
【考察】
見正らは,様々な運動下によりβ-エンドルフィンの血中濃度が上昇するとしており,菊地は運動を用いた抑うつ改善にエンドルフィン作用の有用性を明らかにしている.エンドルフィンは気分の高揚,多幸感,痛覚の閾値上昇,不安の緩和等に作用するという報告もあり,本症例も週3回の身体リハにより血中のβ-エンドルフィンが上昇する事によって意欲的な発言や体動痛に関する発言頻度の減少に繋がったのではないかと考える.同時に,両下腿の浮腫が軽減したり歩ける様になるという目に見える変化が生じた事も本人に肯定的な影響を及ぼしていると推測する.
精神科作業療法は集団活動が主である.その為,身体的個別アプローチに時間を費やす事が難しい.そこで,当院では2017年より身体リハビリテーション(以下身体リハとする)を必要とする患者に個別介入を実施し,退院支援及び病棟におけるQOL向上に努めている.身体リハを実施している患者の中で,介入当初は受動的に取り組んでいたが徐々に意欲的・能動的に取り組むようになった患者がいた為,その意欲向上のプロセスを探っていく.また,症例報告にあたり本人から同意を得ている.
【対象および方法】
対象
1)対象者情報:A氏.70歳代女性.診断名:統合失調症.既往歴:腰椎圧迫骨折(Th12).現病歴:20歳代後半から陰性症状を主症状とし,B病院にて外来加療していたが,60歳代後半で纏らない言動や奇異行動が出現し,B病院に入院となる.その後,m-ECTを施行し,疎通が改善されたが,腰椎圧迫骨折によるADL低下と体動痛が出現.整形外科を受診するも手術適応なく対症療法となる.更なるADL改善や施設入所等の退院調整が必要となり,当院へ転院.2)身体リハ導入の経緯:ADL向上と立上り動作の再獲得を目標に身体リハ導入.3)初期評価:精神症状:抑うつ,感情失禁,依存的.姿勢:円背,立位時にふらつきがあり立位保持困難.移動:車椅子自走.ADL状況:入浴,更衣半介助.
方法
ADL向上と立上り動作の再獲得を目的に身体リハ開始.
介入初期週3回,立上り訓練,左右横歩き訓練を実施.介入3か月後週3回,立上り訓練,左右横歩き訓練,両下腿浮腫への徒手療法を実施.介入6か月後週3回,立上り訓練,抑速ブレーキ付き歩行車(以下歩行車とする)を使用した歩行訓練,両下腿浮腫への徒手療法を実施.
【結果】
身体リハの経過
介入初期1)本人の様子:感情失禁あり.スタッフとの些細な会話で涙を流す.体動痛がありベッド上で睡眠がとれず,夜間は車椅子上で入眠しており,両下腿浮腫著明.介入3か月後1)方法変更の経緯:介入初期よりも更に両下腿浮腫著明で看護師より作業療法士へ相談あり. ベッド上仰臥位ポジショニングを調整.翌日にA氏の両下腿浮腫軽快.それ以降,ベッド上で睡眠可能となる.2)本人の様子:感情失禁の頻度減少.「歩くの好き.今日も歩こうね.」という意欲的な発言や「眠れない日もあるけど横になれると楽なの.」等,前向きな発言が増える.体動痛の訴え減少.介入6か月後1)方法変更の経緯:立上り動作,左右横歩きが安定した為,手すりを用いた歩行訓練を実施.こちらも問題なく行えた為,歩行車を使用した歩行訓練に移行.2)本人の様子:見守りで歩行可能.身体リハ終了時「次はいつ来るの.」と意欲的な発言あり.また,「今度は歩行車を使わず自分で歩けるようになりたいね.」と前向きな発言もあり. 体動痛の訴え更に減少し,「今は痛くないの」と発言あり.
【考察】
見正らは,様々な運動下によりβ-エンドルフィンの血中濃度が上昇するとしており,菊地は運動を用いた抑うつ改善にエンドルフィン作用の有用性を明らかにしている.エンドルフィンは気分の高揚,多幸感,痛覚の閾値上昇,不安の緩和等に作用するという報告もあり,本症例も週3回の身体リハにより血中のβ-エンドルフィンが上昇する事によって意欲的な発言や体動痛に関する発言頻度の減少に繋がったのではないかと考える.同時に,両下腿の浮腫が軽減したり歩ける様になるという目に見える変化が生じた事も本人に肯定的な影響を及ぼしていると推測する.