第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-10] ポスター:発達障害 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PI-10-2] 筆記具の把持形態がもたらすパフォーマンスの特徴

髙見澤 広太1,2, 笹田 哲3 (1.神奈川県立保健福祉大学大学院博士前期課程, 2.介護老人保健施設都筑シニアセンター, 3.神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)

【はじめに】
 書字とは,姿勢保持の基礎となる筋骨格系,筆記具の操作に関与する手指系,感覚機能や注意力などの認知機能系を要する高度な作業であり,児童が困難さを抱えることにより,複数の教科に影響を及ぼす可能性が懸念されている.著者の臨床経験上,筆記具の持ち方についてご家族から相談を受けることは多く,発達障害児では,顕著に筆記具の先端を持つ形態などの特異的な持ち方が観察されることも少なくない.しかし,リハビリテーションを実践する上でも,一般的に望ましいとされる把持形態と特異的な把持形態が,書字や描画にどのような影響をもたらすか否かは不明瞭な部分が多く,健常児や発達障害児のみならず,成熟期を迎えた健常者においても詳細は不明である.特異的な持ち方を含む各把持形態の特徴を明らかとすることは,書字に困難さを抱える児童をはじめ,指導を実践する作業療法士や教師などの一助になりうると考えられる.そこで,本研究では,健常者を対象として,各把持形態における基礎的な情報を定量的に収集し,把持形態がパフォーマンスへもたらす影響について検討することとした.
【方法】
 研究デザインは準実験研究である.対象は,運筆に影響を及ぼす視覚障害,上肢機能障害のない右利きの健常者20名とした.一人の研究対象者に対して,日常生活の把持,動的三面把持,母指内転型三面把持,示指過伸展把持,鉛筆先端把持,鉛筆垂直把持の6種類の把持形態で螺旋課題を行い,書写教育分野で望ましいとされる座位姿勢の条件で測定した.また,評価機器として,各データを定量値で算出できるTraceCoder(SYSTEM NETWORK社製)を使用した.主要評価項目は,螺旋課題における正確性(mm),副次的評価項目を筆圧(N),速度(mm/s),筆記時間(s)とした.6種類の把持形態から得られた各評価項目について,それぞれ3回試行の観測値から平均の差を比較した.統計解析には,繰り返しのない二元配置分散分析と多重比較検定(Bonferroni法)を用いた.有意水準は 5%未満とし,SPSS(IBM 社製)を使用した.なお,本研究は,大学の研究倫理審査の承認を得て実施した.
【結果】
 繰り返しのない二元配置分散分析では,正確性を示す乖離幅(mm),筆圧(N),速度(mm/s),筆記時間(s)のいずれも有意差が認められた(p<0.05).また,多重比較検定(Bonferroni法)では,各把持形態における一部のペアで有意差を認めた(p<0.05).日常生活の把持は,正確性が高く,速度と筆記時間が最も速い傾向であった.動的三面把持は,各把持形態の中で最も正確性が高く,筆圧が低い,速度と筆記時間が遅い傾向を認めた.母指内転型三面把持は,最も筆圧が高く,示指過伸展把持は,速度と筆記時間が速い傾向であった.鉛筆先端把持と鉛筆垂直把持は,どちらも正確性が低く,速度と筆記時間も遅い把持形態であり,鉛筆先端把持は筆圧が高く,鉛筆垂直把持は最も筆圧が低い傾向を認めた.
【考察】
 本研究では,各把持形態における特徴について検討した.正確性,筆圧,速度,筆記時間などの評価項目ごとに差がみられ,把持形態がパフォーマンスに対して影響をもたらすことが明らかとなった.健常者においても,鉛筆先端把持,鉛筆垂直把持などの特異的な把持形態でパフォーマンスが低い傾向であったことは,本研究によって得られた新たな知見であり,子どもにおいては大きな影響をもたらす可能性が予測される.また,これらの知見は,筆記具の把持形態別において,機能性を鑑みた基礎的な情報であり,発達領域での作業療法や特別支援教育などに貢献できるものである.今後は,健常児や発達障害児などの対象を含め,書きやすさなどの主観的な意識も調査しつつ,深く検討していく必要性があると考える.