第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

発達障害

[PI-10] ポスター:発達障害 10

Sat. Nov 11, 2023 2:10 PM - 3:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PI-10-5] 発達性協調運動障害児の人物画発達に視覚的反応が与える影響

小枝 周平, 三上 美咲, 佐藤 ちひろ, 山田 順子, 斉藤 まなぶ (弘前大学大学院保健学研究科)

【はじめに】
発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder, DCD)は,粗大運動や微細運動の不器用さを示す疾患である.人物画発達には,微細運動の不器用さのほかにも人物に対する視覚的反応が重要な役割を果たしていることが報告されている.本研究は,微細運動に不器用さを有するDCD児が,運動以外にも視覚的反応が人物画発達を阻害する要因となるか,なるのであればどのようなものに対する視覚的反応に乏しいかを明らかにすることを目的に調査を行った.
【方法】
対象は,A市5歳児発達健診二次健診を受診し,DCDの診断を受けた児37名である.対象は,人物画検査として日本版ミラー幼児発達スクリーニング検査(JMAP)の人物画,協調運動技能検査としてMovement Assessment Battery for Children-Second Edition(MABC-2)を実施した.また,視覚的反応の検査として視線計測装置であるGazefinder(JVC Kenwood; Hamamatsu, Japan)を用いて「人間の顔」「点画」「好み」「窓画」「指差し」の5つの画像を提示し,それぞれの画像に設定したエリアを見た時間の割合である注視点取得率を算出した.解析は,まず,対象者をJMAPの人物画得点による判定に従い,人物画の発達に遅れがあると判定された児を赤・黄群(n=23),遅れがないと判定された児を緑群(n=14)に群分けした.その後,対象者の特徴の比較には,対応のないt検定およびカイ二乗検定を用いて群間比較を行った.また,DCD児の人物画発達に関連する視覚的反応を明らかにするため,従属変数をGazefinderの画像の各エリアの注視点取得率,独立変数を人物画判定,共変量をMABC-2合計テスト得点とした多変量共分散分析で群間比較した.これらの統計処理には統計解析ソフトSPSS 27.0を使用し,危険率5%未満を統計学上有意とした.なお,本研究は弘前大学医学研究科倫理委員会(2015-055, 2018-168)の承認のもとに実施され,開示すべきCOIはない.
【結果】
対象者の特徴の比較では,赤・黄群は緑群と比較してJMAP人物画得点とMABC-2の合計得点および手先の器用さ構成得点が有意に低く,人物画発達の遅れと手先の不器用さが認められた(p<0.05).Gazefinderの画像の各エリアの注視点取得率の比較では,赤・黄群は緑群と比較して「点画」の映像の正方向のエリア(画面上の複数の光点のまとまりが人間の動きとなっている映像における,頭が上で足が下になるように人が立っているエリア)において注視点取得率が有意に低かった(F=3.71,偏イータ二乗=0.22,p<0.05).「人間の顔」「好み」「窓画」「指差」の映像においてはいずれも有意な差は認められなかった.
【考察】
本研究の結果,DCD児の人物画の発達には微細運動の不器用さが関係していた.微細運動の不器用さが人物画発達に関係することはすでに知られており,不器用さによる失敗経験の繰り返しが悪影響を及ぼすことが報告されている.また,本研究ではDCD児の人物画の発達に「点画」の映像の正方向のエリアへの視覚的反応が乏しいことも明らかとなった.今回提示した「点画」の映像は,生物の動きを光点のまとまりで表したバイオロジカルモーション(Biological Motion, BM)を利用した映像である.BMに関する先行研究では,定型発達児は人間として認識しやすい正方向のBMに注意を向けやすいことやBMに関心を示さないことは,社会性の発達に悪影響を与えることが報告されている.したがって,正方向のBMに関心を示さないDCD児は,社会性の発達の乏しさから他者に注意を向けないという特性があると考えられ,その特性が人物画発達の遅れに関連していたと推察された.