第57回日本作業療法学会

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ポスター

発達障害

[PI-11] ポスター:発達障害 11

Sat. Nov 11, 2023 3:10 PM - 4:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PI-11-1] 不器用さを有する児における紐結び動作の特徴:健常成人との比較

中島 そのみ1, 中黒 麗子2, 池田 千紗3, 仙石 泰仁1 (1.札幌医科大学保健医療学部, 2.札樽・すがた医院, 3.北海道教育大学札幌校特別支援教育専攻)

【はじめに】
 手先の不器用さを有する発達障害児は,日常生活や学校で行うさまざまな活動に困難を示す.中でもズボンの腰紐や靴紐で行う蝶結びは,男児で6歳半,女児で5歳半で獲得率が40%とされているが,発達障害児は7歳を超えても動作獲得されない場合も多い.そのため,作業療法でも動作指導を行うことも少なくないが,有効な指導方法が明確ではない.そこで本研究では,蝶結び動作の指導方法を検討するため,不器用さを有する児の蝶結び動作の特徴を健常成人との比較から明らかにした.
【方法】
 対象は本研究への協力に同意が得られた右利きの不器用さを有する発達障害児と発達障害の疑いのある児(以下,不器用児)4名(3~5年生)と,健常大学生(以下,健常成人)18名とした.課題は普段行なっている蝶結び動作とし,健常成人は5施行,不器用児は3施行実施した.対象児者は,椅子座位をとり,蝶結びには机上に固定された箱(縦24・横20・高さ3.5cmの箱の蓋)の中央2か所から出ている,太さ7mm,長さ36cmの2本の手芸用紐を使用した.動作中の様子は真上から手元が映るようにして動画で撮影した.
【分析方法】
 蝶結びの動作は動画を使用し,蝶結びの工程を分類した12工程(坂本,1986)を参考に分析を行った.本報告では最初の動作工程である,2本の紐を持ち交差する → 一方の紐を捻って結ぶ,までの動作を分析対象とした.分析指標は,2本の紐を持ち交差する工程では,紐の端が上向きか下向きか(以下,①紐の向き),一方の紐を捻って結ぶ工程では,②紐の捻り方,③紐を捻る手ではない方の手の状態(以下,②非操作手の状態),④捻る時の操作する紐の位置(以下,④操作する紐の位置)の4点とした.なお本研究は筆頭著者の所属先における倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】
①紐の向き:健常大学生では上向き,下向きがそれぞれ9名,不器用児ではそれぞれ2名であった.
②紐の捻り方:健常大学生では,1)交差でできた穴(以下,穴)に右指(左指)で紐を押し込み,同側の指で紐を引くが9名,2)左手指で交差した部分を掴んで捻りながら穴のところまで紐を持っていき,右指で穴から紐を引くが4名,3)紐の下から右指を入れて紐を取りに行き紐を引くが4名,4)右指で穴に紐を押し込み,反対側の左指で紐を引くが1名であった.不器用児では,健常大学生で見られた1)が3名,残りの1名は,右指で紐を持ち左指に持ち替え穴に差し込み,右指で紐を引いていた.
③非操作手の状態:健常大学生では,1)交差部分を掴んで固定しているが14名,2)結ばない方の紐を引っ張り固定しているが4名であった.不器用児では,健常大学生で見られた1)が3名であったが,うち1名はしっかり交差せずに掴んでいた.残りの1名は,捻る動作に左右両方の手を使用していため,健常大学生で見られた固定する状態が見られなかった.
④操作する紐の位置:健常大学生では,捻った結び目から紐先までの間の紐を操作していた.不器用児は2名が健常大学生と同様で,残りの2名は紐の先端を母指と他指で掴んで穴に入れたり,入れた紐を引いていた.
【考察】
 不器用児の紐結び動作の特徴は,②紐の捻り方,③非操作手の状態から,一方の紐を捻って結ぶ際に,紐を操作しない方の手指を機能的に使用することが難しい傾向にあること,④操作する紐の位置から,指1本で紐を操作することが難しい傾向にあることが明らかになった.今回は上肢及び手指の運動機能の具体的な問題が示されたが,蝶結び動作には,工程の理解や記憶などといった認知機能も影響していることから,さらに分析を進めていく必要がある.