第57回日本作業療法学会

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ポスター

発達障害

[PI-11] ポスター:発達障害 11

Sat. Nov 11, 2023 3:10 PM - 4:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PI-11-3] 不登校児への訪問作業療法の有効性

大戸 普賢1,5, 松田 直子2, 森川 敦子3, 藤井 浩美4,5 (1.いろは訪問看護リハビリステーション, 2.発達支援ルームしどれ, 3.株式会社奏音, 4.山形県立保健医療大学, 5.山形県立保健医療大学大学院)

【背景】文部科学省は,1991年時点で国内の小・中学生の66,817人が不登校の状況にあると報告した.その人数は増え続け,2021年時点で244,940人となった.これまでの報告は,このような不登校児に対する支援として,学校内での包括的支援アプローチや認知行動療法などの取り組みはあるものの,学校外での取り組みは少なく限定的である.また,作業療法士(OTR)が不登校児の自宅や自室を訪問した事例報告は,稀有である.そこで,不登校児に対しての訪問作業療法(OT)によって生じた対象児の変化から,訪問OTの有効性を検証した.本報告は,本人と保護者に目的と方法を説明し,文書で同意を得た.
【症例紹介】中学1年時の2月より訪問OTを開始した男児で,診断名は注意欠如・多動症であった.医師からの指示書には,「ゲームへの執着が強く,家族との衝突が絶えない,対人関係と日常生活リズムの改善をお願いします.」とあった.訪問開始時は,時々学校へ行けることもあったが,夜間ゲームに没頭してしまい,朝起きられず不登校の状況であった.
【OT評価】機能的自立度評価表(FIM)得点も食事4点,整容4点,清拭4点,更衣4点であった.ゲームに依存的であり,一度始めると終わることができず,夜間没頭してしまうため日常生活リズムも乱れていた.そのため,両親とトラブルになることが多々あり,暴言暴力も認められた.学力は保てていたが,特に将来の目標もなく,衝動性の高さから計画的に行動することが苦手であった.ゲーム以外の趣味は,プロモデラーの父の影響からプラモデルに興味はあったが,訪問開始時はゲームに依存的であった.
【経過】本事例(A氏)の訪問OTは,週/1回の頻度で開始した.訪問OTの内容は,A氏の学校を休む理由に傾聴し,二者関係の確立に努めた.その中でA氏の問題点として,夜間ゲームをし,朝5時に就床することがわかった.そこでA氏とOTRの間で協議し,午前0時までに就床する約束をし,生活リズムチェック表をつけるように促した.しかしながら,就床時間の約束が守れず,日常生活リズムや家族との関係に改善が認められなかったため,訪問OTの頻度を週/2回に変更した.その後,ゲームによる日常生活リズムの悪循環を断ち切る目的で,中学2年時の8月に,興味のあるプラモデル制作を活用し,作品コンテストへの応募を提案した.OT訪問時は,プラモデル制作活動の進捗状況や生活状況の確認を行いながら,自己認知を促した.A氏はそのコンテストに応募し,結果が全国2位であった.この経験を機に,ゲーム依存から脱却し,就床時間が守られるようになった.また,「将来プラモデルに携わる仕事をしたい」という目標ができ,高校進学に向けて学校を休むことが減り,FIM得点は,すべての項目で満点となった.
【考察,まとめ】A氏は,ゲームを中心とした生活に陥り,日常生活リズムの乱れが社会参加の阻害要因であった.日常生活リズムを整えるための前提は,日内リズムを外界の24時間スケジュールに同調させることである.そのため,生活リズムチェック表は生活リズムを含めた自己認知を促すうえで重要であったと推察する.今回A氏は,興味のあるプラモデル制作を利用することで,ゲームからの悪循環を断ち切ることができた.ゲーム依存に伴う悪循環を断ち切るためには,対象児自身に新たな活動への喜びを体験させることが重要だと推察する.したがって,不登校の訪問OTは,OTRとの確実な二者関係のもと,対象児の日常生活リズムや日常生活活動の改善,社会参加への誘導に有効であることを示唆する.