第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-11] ポスター:発達障害 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PI-11-4] 医療的ケア児の保護者による自助サークル活動報告

山西 葉子 (東京都立大学健康福祉学部作業療法学科)

【はじめに】医療的ケア児とは,医療機関以外の学校や自宅において,日常的に喀痰吸引や経管栄養,気管切開部の衛生管理などの医行為が必要な児のことである.2021年時点で約2万人が在宅生活を送っており10年前に比べ2倍以上に増加している.地域の学校や療育施設を利用するには,医行為が可能な職員が必要であり参加が制限される,そのために保護者が付き添いを求められ離職をするケースもいる,ケアの中心を担うのは母親が大多数であり,慢性的な疲労や睡眠不足,相談機関がなく孤独を感じているなど様々な課題があった.これらの課題解決に向け,2021年9月に,医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律が施行された.法律では自治体が責務として行うことも定められているものの,地域での取り組みやそのスピードも様々である.このような中,医療的ケア児との在宅生活を機に離職も経験した保護者が,自身の経験を活かしたいと,自助サークルを立ち上げ,SNSを通じて情報を発信し,居場所つくりの活動を開始した.本学会ではその取り組みについて報告する.なお報告にあたり参加者の同意を得ている.
【サークルが目指すこと】 ケアで外出困難な母親が話せる(情報共有や気持ちの共有・共感)場をつくり,地域での孤立を防ぐことを目的とする.
【活動内容および経過】 代表,副代表(著者),保護者スタッフ4名で2021年7月にサークル活動を開始し,以下の3つを活動の基本軸として展開している.①胎児診断を受けた母親へのピアサポートでは,全国の胎児診断を受けた母親からのメッセージと体験談を記載したリーフレットを作成した.医療機関5か所,訪問看護ステーション3か所,助産院8か所等,個人宛も含め300部を配布した.②ピアサポート交流会ではオンラインと対面交流会を実施した.オンラインはZoomミーティングを用い,各回定員を4-5名とし,月1回60分から最大90分で運営した.2022年度からは月ごとにテーマを設定し,その話題を中心に情報交換を行った.これまでに13回の実施で延べ55名の参加があった.対面交流会は代表者の居住地を中心に実施した.当初はレンタルスペースや子育て支援施設の一角を借りて実施していたが,2022年度からは市内の保健センターにて,保健師も同席し開催した.③インクルーシブ子育てサロンは不定期開催で,疾患を限定せず,医療的ケアや障がいの有無にかかわらず,地域の親子の交流の機会とした.地域の企業と共同し,鉢植えプロジェクトを企画し交流を図った.
【考察】 オンライン交流会では,希少疾患でなかなか同じ疾患の子と居住地では出会えなかったが,SNSを通じて存在を知り参加した保護者もいた.全国各地域,国外からの参加が得られ,似たような悩みや経験,同じ疾患を持つ児を育てる保護者がつながる機会となり,これまで抱えていた不安だった気持ちを語る機会にもなった.ケアで外出の時間を確保しにくい母親にとっても自宅でケアをしながら参加することもでき,これはオンライン活用のメリットであると考える.また対面交流会では行政に医療的ケア児の課題,保護者のニーズに関する意見書を提出し,地域の保健センターでの実施に発展した.参加者は公的機関での開催に安心して参加し相談ができ,保健師は医療的ケア児の実態や家族の声に直接触れ,ニーズを聴取するなど,相互にメリットが得られている.母親自身もサークル活動の運営とともに自身の役割を感じ,自らが住みやすい地域づくりに参画しエンパワメントの場になっていると考える.今後は活動の実践の成果を把握し,地域サービスの発展につなげられるよう,さらなる研究につなげていく必要がある.