第57回日本作業療法学会

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ポスター

発達障害

[PI-12] ポスター:発達障害 12

Sat. Nov 11, 2023 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PI-12-5] 児童発達支援事業を利用する年長幼児の感覚処理・行為機能と就学時の学びの場との関係

千田 直人1,2, 菅谷 梨香2, 加藤 志央2, 加瀬 淳見2 (1.植草学園大学, 2.NPO法人 市川ことばの会 多機能型事業所 ぷれも)

【背景】
 通常の学級に在籍する小学校第1学年児童が,学習面又は行動面で著しい困難を示す割合は12.0%と推定されており(文部科学省,2022),通級による指導や特別支援学級の在籍といった児童の教育的ニーズに応じた学びの場を柔軟に検討することが求められる.就学を控えた年長幼児の学びの場を決定するプロセスにおいては,専門家が評価した児の発達特性の情報を保護者が十分に理解し,教育機関と綿密に就学相談を展開できることが重要である.しかし,保護者が理解すべき発達特性の情報について,WISC-Ⅳ等の心理検査がなされることは多いものの,感覚統合機能の評価であるJPAN感覚処理・行為機能検査(JPAN)が用いられることは少なく,その結果と就学時の学びの場との関係を検討した研究は見当たらない.
【目的】
 児童発達支援事業を利用する年長幼児の感覚処理・行為機能と就学時の学びの場との関係を明らかにする.
【方法】
 2019年7月-2022年3月に当事業所で児童発達支援事業を利用した年長幼児のうち同意の得られた22名(男性14名/女性8名,年齢5.9±0.3歳)を対象とした.対象者の感覚処理・行為機能の測定にはJPAN Short Version(S-JPAN)を用い,分析にはS-JPAN 8項目の各測定値を年齢%タイルに換算した5段階尺度(0-5%:1,6-16%:2,17-25%:3,26-50%:4,51%以上:5)を用いた.就学時の学びの場は,小学校第1学年初学期における在籍形態を保護者より就学後に聴取し,通常学級のみか,言語や情緒等の通級による指導もしくは特別支援学級在籍といった何らかの特別支援学級の利用(支援学級)の2群に分類した.統計解析ではMann–Whitney U検定を実施し,有意水準は5%未満とした.
【結果】
 対象者の就学時の学びの場は,通常学級16名と支援学級6名(通級4名,支援学級在籍2名)であり,性別と年齢に両群の有位差は認められなかった.S-JPAN 8項目のうち,行為機能に属する空間的な両側対称同時運動である「けがして大変」において,通常学級と支援学級の中央値(四分位範囲)はそれぞれ2.5(2-4)と1(1-1.8)であり,支援学級の方が通常学級より有意に低値であった(P=.033).他の項目には両群に有位差は無かった.
【考察】
 本研究では,就学時に何らかの特別支援学級を利用した幼児の方が,通常学級のみの在籍であった幼児より,両上肢の空間的な協調動作に困難性があることが明らかとなった.これは,保護者が就学時の学びの場を検討する際の児の発達特性に関する情報として,S-JPANの一部の検査項目が用いられうる可能性を示唆している.「けがして大変」は,非利き手の手関節に付けた2m程度の紐を立位姿勢にて利き手で巻きつける課題であり,両上肢を上下前後に対称的に動かすことが求められる.この課題には,両側運動協調とともに運動の計画性や目と手の協調を要し,感覚統合機能を評価する上で重要な前庭覚および固有受容覚の情報処理過程が反映される.感覚統合機能の未熟さは,読み書き等の学習面や不注意・こだわり等の行動面の困難さに影響することから(Bundyら,2006),教育的ニーズを有する就学前幼児の感覚処理・行為機能を的確に評価することは,保護者が学びの場に関する情報を整理できることに繋がるといえる.
 今回は対象者数の制限により2項間の関係性を検討するに留まったが,今後は回帰分析等により幼児期のS-JPANが就学時の学びの場を予測しうるか確認する必要がある.