第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-3] ポスター:発達障害 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PI-3-1] 入浴ケアの困難さに対しグリップクッションの導入により介助量の軽減に繋がった重度アテトーゼ型脳性麻痺の一例

小澤 恵 (社会福祉法人二之沢愛育会 群馬整肢療護園)

【背景と目的】
今回,入浴ケアに困難さがある事例1名に対し,他職種と連携し日課の流れを想定した道具選定を行った結果,不随意運動の軽減と介助者の負担感軽減,安全性の配慮が行えた為,ここに報告する.
【対象】
34歳男性. 診断名は重度痙直型アテトーゼ,症候性局在関連てんかん,精神発達遅滞.GMFCSレベルⅤ.ADL全介助.上肢の不随意運動は感情の昂りと共に活発となる.圧刺激等の固有覚刺激は受け入れリラックスする.口腔以外の触覚刺激は鈍麻傾向.視覚は急に視野に入る像に対し,反射性瞬目と全身の反り返り姿勢が強まる傾向にある.
入浴時,洗体は介助者2名で実施.洗髪と洗顔時は介助者の手が目線に近づくと,感情が昂りと共に瞼を強く閉じ,持続的な全身の反り返り姿勢が強まる.また,両上肢の不随意運動と共同屈曲パターンが顕著に認められる.上肢がレバーや台の隙間に手先が入り込む為,介助側が押さえる等の安全面配慮が欠かせず,介助負担感が大きかった. 
【方法】
実際の入浴場面にて入浴ケア時の介助者からの聞き取りや環境設定の評価を実施.その上で,筋緊張亢進及び変動の要因と考える感覚刺激に着目し,各感覚刺激を調整するために(1)から(3)の環境設定を行った.(1)介助者の手が視界に入らないようゴーグルを装着,(2)上肢と体幹を包み込む形でバンドの装着(3)手部を握りこむグリップクッションの装着.また,(3)の導入前後で,介助者に対し洗髪,洗顔時における負担感についてアンケートを実施.
 本研究は,当施設の倫理委員会の承認と,保護者に書面,口頭にて同意を得て実施した.
【結果】
実施した(1)から(3)の環境設定の経過及び結果と,介助者へのアンケート結果を示す.
(1)ゴーグル着脱時に全身の反り返り姿勢が強まり,入浴準備に時間を要し現実的な導入が困難であった.(2)バンドの装着により不随意運動は抑制されるが圧迫による呼吸,循環不全等のリスク面から導入に至らず.(3)グリップを握る様子有り.感情の昂りはみられるが一時的であり持続時間は減少.上肢の共同屈曲パターンが低減し,不随意運動が軽減.洗髪,洗顔時にレバーや台の隙間への手の挟み込み頻度が減少した.
 介助者へのアンケート結果 回答率94.1%.装着前で「非常に大変」23.5%,「やや大変」70.6%であった.装着後は「やや大変」17.6%,「どちらともいえない」35.3%,「あまり大変ではない」41.1%.
【考察】
アテトーゼ型脳性麻痺は常に中枢部の不安定な状況の中で安定を得ようと強い非対称を示すとの報告がある(RegiBoehme.1999).本症例も,入浴時は特に感情の昂りが強く,安定を得ようと全身の反り返り姿勢を強め不随意運動が出現していた.今回導入したグリップクッションは,握った反発力により固有感覚入力が得られる.感覚統合理論によると,強い触圧覚及び固有感覚刺激によって鎮静効果が得られるとされている(土田玲子.2006).握ることで得た固有感覚刺激により感情の昂りと上肢の共同屈曲パターンが低減,結果として手の挟み込み頻度の減少等の安全性への配慮に繋がったと考える.
また,実際の入浴ケア場面の評価を詳細に行うことで,症例に合わせた対応のみならず,介助者目線での導入が図れた.介助者からも概ね肯定的な感想が聞かれ,現場に沿った支援になったと考える.
今回,入浴ケアにおける環境支援を実施していく中で,作業療法士が他職種連携を意識し,対象者の日常的ケアで実際的に導入出来る環境支援を行うことの重要性を感じた.