第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-3] ポスター:発達障害 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PI-3-4] 個別活動と他者とのコミュニケーション

細田 忠博1, 佐藤 弘行2, 黒木 徹2, 川口 淳一3, 大曽根 いづみ1 (1.一般社団法人茨城県リハビリテーション専門職協会つくば市福祉支援センターさくら 地域活動支援事業, 2.一般社団法人茨城県リハビリテーション専門職協会, 3.社会医療法人社団同樹会 結城病院リハビリテーション部)

【はじめに】一般社団法人茨城県リハビリテーション専門職協会は,2021年からつくば市の地域活動支援事業Ⅱ型を委託され現在運営を担っている.今回,症例発表をする機会を得た.症例は,特別支援学校高等部を卒業後,当センターを利用している.今回,他害行為が見られる症例に対し塗り絵を個別活動として提案し介入したので以下に報告する.
【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき発表の主旨を本人家族に説明し同意を得る.
【症例紹介】20代男性.診断名21トリソミー.療育手帳:○A.同居家族:父,母,姉.第一印象:笑顔が印象的であり,人懐っこい.
【作業療法評価】○Needs:地域や行政の支援を受けながら楽しく活動したい.言葉は出なくても,挨拶(おじぎ,手を振る等)ができるようになってほしい.将来は施設入所を希望.○日常生活動作:食事部分介助.介助者が一口分をお椀に入れ,箸を使いかき込むように口に入れる.排泄は,便器の外へ排尿してしまうことがあるため見守り必要.
○コミュニケーション能力:発話は「ボボボッ」と言葉をリズムで表出.意味ある発語はない.ベビーサインで「トイレ」や「待つ」を表出すること可能.○ABC−J:サブスケール:Ⅰ-13点,Ⅱ-2点,Ⅲ-2点,Ⅳ16点,Ⅴ0点○行動援護調査:12点○強度行動障害判定基準:5点
○個別活動の様子:他者に興味を示すが,協働する様子はない.作業は,ビーズ入れやペグボードを行う.反復することで,記憶し集中して取り組む.作業のルーティンから外れた場合や他の利用者が突発的な行動をとると,興奮し物を投げたり他害が見られた.ドラえもんに興味あり.新しい作業を支援員が提案するが受け入れる事はなかった.
【介入方針】症例自身のルールにそぐわなかった場合に起こる,他害行為が課題と判断した.他者とのコミュニケーションの取り方や信頼関係の構築方法を見出していく必要があった.症例が興味を示すもので,取り組んだ作業活動が他者の評価を受けられるものとして,色鉛筆での塗り絵を選択した.下絵はドラえもんを使用.塗り絵の特性は,症例の心模様や作品として成果を共有する事が期待された.
【経過】塗り絵を提供すると集中して取り組むことが出来た.提供から6ヶ月後に,塗り絵を筆者まで届けるようになる.その都度,筆者が塗り絵に対してコメントした.塗り絵を行う際に,先が尖っている色鉛筆を折り,鉛筆を削る事に興味が移行する様子があった.1年が経過し,筆者以外のスタッフへも塗り絵に対してコメントをもらうようになり,支援員の助言も聞き入れる事が増えた.
【結果】他利用者への他害は見られるが,支援員の助言を受け入れることや新しい作業を受け入れるようになった.毎日の塗り絵を,60枚集め写真に撮り作品として出展し入選した.○ABC−J:サブスケールⅠ-10点,Ⅱ-3点,Ⅲ-0点,Ⅳ6点,Ⅴ0点○行動援護調査:7点○強度行動障害判定基準:3点
【考察】今回,塗り絵という作業の特性を活かし,他者とのコミュニケーションの取り方と信頼関係の構築に着目して介入した.塗り絵という成果物を通して,能動的に他者と関わる機会を持つことが出来た.重度の知的障害を持つ症例は,自分から他者に対して確認を行うことや関わりを持つことが結果的に困難で,他者に対し過敏に反応してしまうことが予想された.他害行為は残存するが,突発的に行動する事は見られなくなった.スタッフに対してやりたい作業をジェスチャーで伝えたり,自分の意思が伝わることで,他者が理解しようとする相互の関係性が症例にとって他者との関わりの第一歩になったと考える.