[PI-4-5] 学齢期発達障がい児の読みにおける眼球運動の問題と姿勢・平衡機能および両側運動協調
【はじめに】 読み(読字)のプロセスには,眼球運動などの視覚関連機能だけでなく,音韻処理機能,さらに,その流暢さには小脳関連機能が関与すると言われている.読みに問題を抱える児には,小脳機能が関与する姿勢・平衡機能にも問題をもつ可能性が考えられている.古くは,Ayres(1984)が,学習障害児(現在の発達障害に該当)を対象に因子分析を行い,読字障害と姿勢および両側統合の障害に強い関連があり,眼球運動の問題も伴いやすいことを報告した.しかし,Ayresの研究では,定量的な眼球運動の評価での検証はなされていない.そこで,本研究は,定量的な読みにおける眼球運動の評価を用い,眼球運動の問題の有無により,姿勢・平衡機能および両側運動協調に違いが見られるのかを明らかにすることを目的とした.
【方法】 1. 対象:対象者は,A病院発達センターにて作業療法を処方された585名のうち,①発達障害に該当する診断がある,②6〜10歳,③知的障害の診断がなく,知能指数(IQ)70以上,④Developmental Eye Movement test(以下,DEM)およびJPAN感覚処理・行為機能検査(以下,JPAN)の初回評価データがあることを条件に抽出した.2. 調査項目:読みの眼球運動の評価として用いたDEMは,海外を中心に広く用いられている眼球運動評価であり,数字を音読させ,衝動性眼球運動の速度と正確性を測定する.姿勢・平衡機能および両側運動協調の評価には,JPANより姿勢・平衡機能領域から6項目,行為機能領域から両側運動協調課題4項目を用いた.3. 分析:眼球運動の問題の判定には,先行研究に倣い,衝動性眼球運動の正確性を評価するDEM比率を用いた.基準は定型発達児(玉井ら,2010)の-1.5SD以下(下位6.7%)および遂行不可を問題ありとし,眼球運動の問題の有無による2群で姿勢・平衡機能および両側運動協調を比較した(Mann-WhitneyのU検定).統計解析にはIBM SPSS Statistics25を用いて,有意水準を5%未満とした.なお,本研究は,研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】 1. 対象:分析対象者は207名で,平均月齢は97.6±15.3ヶ月,男性168名,女性39名,IQ平均95.4±13.8であった.診断は,自閉スペクトラム症(ASD) 153名,注意欠如多動症(ADHD) 103名,限局性学習症(SLD) 24名,うち発達障害の併存(重複)は,73名であった.2. DEM比率による眼球運動に問題あり群は,93名(44.9%)であった.眼球運動に問題あり群は,問題なし群と比較して,姿勢・平衡機能領域の6項目中4項目で有意に低く(p<.05),1項目で低い傾向(p=.07)にあった.両側運動協調では4項目中2項目が眼球運動に問題あり群で有意に低かった(p<.05).両群で有意差が見られなかったのは3項目で,下位16%以下に6割以上が該当し,両群ともにスコアが低かった.
【考察】 本研究は,知的障害を併存しない学齢期発達障がい児を対象に,DEM比率(読みにおける衝動性眼球運動)に問題のある群とない群で姿勢・平衡機能および両側運動協調を比較した.DEM比率に問題のある群では,姿勢・平衡機能および両側運動協調ともに多くの項目で有意に低かった.また,有意差がなかった項目は,両群ともに低いこと(6割以上が,標準データの-1SD以下)が影響したことを勘案すると,読みにおける眼球運動の問題がある児は,姿勢・平衡機能や両側運動協調の問題を抱えやすいことが示された.衝動性眼球運動の問題は,読み障害の一因と考えられており,作業療法士は『読み』の困難さが主訴に挙げられていなくても,眼球運動の問題から『読み』の困難が生じるリスクを考慮し,さらに姿勢・平衡機能や両側協調運動への介入の必要性が示唆された.
【方法】 1. 対象:対象者は,A病院発達センターにて作業療法を処方された585名のうち,①発達障害に該当する診断がある,②6〜10歳,③知的障害の診断がなく,知能指数(IQ)70以上,④Developmental Eye Movement test(以下,DEM)およびJPAN感覚処理・行為機能検査(以下,JPAN)の初回評価データがあることを条件に抽出した.2. 調査項目:読みの眼球運動の評価として用いたDEMは,海外を中心に広く用いられている眼球運動評価であり,数字を音読させ,衝動性眼球運動の速度と正確性を測定する.姿勢・平衡機能および両側運動協調の評価には,JPANより姿勢・平衡機能領域から6項目,行為機能領域から両側運動協調課題4項目を用いた.3. 分析:眼球運動の問題の判定には,先行研究に倣い,衝動性眼球運動の正確性を評価するDEM比率を用いた.基準は定型発達児(玉井ら,2010)の-1.5SD以下(下位6.7%)および遂行不可を問題ありとし,眼球運動の問題の有無による2群で姿勢・平衡機能および両側運動協調を比較した(Mann-WhitneyのU検定).統計解析にはIBM SPSS Statistics25を用いて,有意水準を5%未満とした.なお,本研究は,研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】 1. 対象:分析対象者は207名で,平均月齢は97.6±15.3ヶ月,男性168名,女性39名,IQ平均95.4±13.8であった.診断は,自閉スペクトラム症(ASD) 153名,注意欠如多動症(ADHD) 103名,限局性学習症(SLD) 24名,うち発達障害の併存(重複)は,73名であった.2. DEM比率による眼球運動に問題あり群は,93名(44.9%)であった.眼球運動に問題あり群は,問題なし群と比較して,姿勢・平衡機能領域の6項目中4項目で有意に低く(p<.05),1項目で低い傾向(p=.07)にあった.両側運動協調では4項目中2項目が眼球運動に問題あり群で有意に低かった(p<.05).両群で有意差が見られなかったのは3項目で,下位16%以下に6割以上が該当し,両群ともにスコアが低かった.
【考察】 本研究は,知的障害を併存しない学齢期発達障がい児を対象に,DEM比率(読みにおける衝動性眼球運動)に問題のある群とない群で姿勢・平衡機能および両側運動協調を比較した.DEM比率に問題のある群では,姿勢・平衡機能および両側運動協調ともに多くの項目で有意に低かった.また,有意差がなかった項目は,両群ともに低いこと(6割以上が,標準データの-1SD以下)が影響したことを勘案すると,読みにおける眼球運動の問題がある児は,姿勢・平衡機能や両側運動協調の問題を抱えやすいことが示された.衝動性眼球運動の問題は,読み障害の一因と考えられており,作業療法士は『読み』の困難さが主訴に挙げられていなくても,眼球運動の問題から『読み』の困難が生じるリスクを考慮し,さらに姿勢・平衡機能や両側協調運動への介入の必要性が示唆された.