第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-5] ポスター:発達障害 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PI-5-2] 特性を考慮したSSTによりコミュニケーションが増加した成人ASD例

大田 理恵1, 川上 英輔2, 海老原 慶1, 深井 光浩2 (1.赤穂仁泉病院就労支援センターSORA, 2.赤穂仁泉病院)

【はじめに】今回コミュニケーションを苦手とする成人自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder以下,ASD)者に対し,コミュニケーション特性を考慮した個別の社会生活技能訓練(Social Skills Training以下,SST)を行った.結果,就労に必要な基本的コミュニケーション技能を獲得し,発信量が増加したので報告する.なお本研究は書面にて対象者の同意を得た.
【対象者】A氏,20歳代後半,男性.診断名はASD.幼少期よりコミュニケーションが苦手であった.ニーズは友人を作りたい,就職したい.X年より就労継続支援B型の当就労支援センター(以下,センター)を利用していた.X年+1年10か月にOTRが介入を開始した.
評価:コミュニケーションと交流技能評価(以下,ACIS)55点.自発的な発信はほぼなく,ごくたまに作業に関する必要最小限の報告が見られた.発信には躊躇があり,発信しない場面もあった.会話は返答が中心で,返答内容は適切であるものの頷きか一語文であった.また「ありがとう」等のクッション言葉はなく,小声で吃音があり,抑揚や表情の変化がほぼなかった.以上より,対象者のコミュニケーション特性を,質問には一語文であるが必ず返答できる,返答など発信のタイミングが遅延しやすい,発信を回避する傾向がある,と捉えた.
【方法】2週に1回,1回30分程度,個別SSTと面談を実施した.個別SSTは,課題のスクリプトを使用して,キューとなる声かけに返答するようにロールプレイを行い,同じ課題を検者と実際の場面で行った.センターのスタッフに対し,課題の場面,キューとなるセリフ,本人の発信を十分待つこと等を共有し,対応を統一した.ベースライン(以下,BL)を1か月,個別SSTの期間(以下,介入期)を1か月,実際の場面の練習とフォローアップ期間(以下,FU期)を3か月と設定した.
課題:課題1は清掃作業の1場面で,スタッフが「外しました(キュー)」と言うと「ありがとうございます」と伝える.課題2は,検者の面談終了時に「お疲れさまでした(キュー)」と言うと「ありがとうございます」と伝える.課題3は,臨床心理士の面談終了時に「これで終わります(キュー)」と言うと「ありがとうございます」と伝える.達成度は,それぞれ課題に対応したスタッフが達成の有無をシートに記載し,集計した.
【結果】課題1の達成率は,BL0/4(0%),介入期4/4(100%),FU期10/12(83.3%).課題2は,BL0/3(0%),介入期3/4(75%),FU期11/11(100%),課題3はBL0/4(0%),介入期1/2(50%),FU期7/7(100%)だった.
最終評価:ACIS,57点.対象者に関連した内容は回避せずに質問することができた.SSTの課題である「ありがとうございます」の発信は継続して行えた.
【考察】今回,課題達成率は高かった.対象者のできる能力を活用し,「一定の場面でキューに返答する」という形式により学習が成立したと考えられる.またASDの「合図や手がかりに気づくことが難しい」という特性に対し,具体的な課題の場面設定や一定のキューを決めることで,タイミングが分かりやすくなり,発信のタイミングの遅延を補ったと考えられる.さらに,実際の場面に即した課題を設定したことにより準備性を高めたこと,スタッフの統一された対応により成功体験が蓄積できたことが,スキルの獲得を促進しコミュニケーションの増加につながったと考えられた.