第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-5] ポスター:発達障害 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PI-5-3] 粗大運動を通した介入と家庭でのプログラムの併用により日常生活動作の実用性が改善した一事例

梶谷 竜之介1, 中岡 和代2, 原田 瞬3, 高畑 脩平4 (1.合同会社BASEともかなFLOW香芝, 2.大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科, 3.京都橘大学, 4.藍野大学)

【はじめに】小児作業療法(以下OT)において,保護者との協同関係は効果的で価値があり,家庭でのプログラムは治療の強度を増すための有効な方法であることが報告されている(Novak,2019).姿勢保持と上肢操作の向上を目的に,粗大運動を通した個別介入と家庭でのプログラムを併用した結果,日常生活動作の実用性が改善した事例を担当したため報告する.なお,本人と保護者に本報告の旨を十分に説明し,口頭及び書面にて同意を得ている.
【事例紹介】7歳7か月男児.診断名は自閉スペクトラム症疑い.地域小学校普通級在籍.運動発達:座位9か月/四つ這い10か月/歩行14か月.WISC-Ⅳ(7歳1か月時点):全検査IQ123,言語理解119,知覚推理122,ワーキングメモリー118,処理速度107.
【初期評価】保護者からは「普段の座位姿勢が努力的で食事中に食事や飲み物をこぼす,荷物を持っていると傘がさせない」などのエピソードが聞かれ,カナダ作業遂行測定(以下,COPM)では,「自分の身体を上手に使ってほしい」が重要度が高く,遂行度3/満足度3であった.JPAN感覚処理行為機能検査では,「ぶたさんの顔(5%tiles以下)」「フラミンゴになろう(開眼)(17⁻25tile)」など姿勢平衡機能と上肢操作の項目で低得点だった.また「ヨットでゴー」で膝立ち位では指先に過剰に力が入り上手く息を吹けない,「おっとっと」で上肢帯に過剰に力が入り,体幹の側屈で道具を操作するといった,口腔や上肢等の末梢操作のために必要な姿勢の安定性が乏しい様子が観察された.加えて,検査に疲れ切ってしまい,閉眼し動けなくなる場面も見られた.日本版感覚プロファイルでは「疲れやすい」「安定を保つために関節を固定する」の耐久性・筋緊張に関する感覚処理,身体の位置や動きに関する調整機能の問題が見られ,「低登録」優位であった. 【介入方針と経過】個別OT(40分/回)を月2回の頻度で10か月間実施した.初期評価より,抗重力姿勢保持の困難さ,姿勢の不安定さが拙劣な上肢操作につながっていると考え,介入前期は抗重力方向の運動を通して,姿勢の安定性を高める事を介入方針とした.さらに,個別OTの頻度が少ないため,家庭でのプログラムを提案した.OTとの綱引きや揺れ遊具にしがみつくなどの活動を通して抗重力方向の運動を促した結果,介入3か月後には,平らな揺れ遊具だけでなく円形の揺れ遊具上での動的な姿勢保持ができるようになり,体幹を土台とした四肢の協調性が高まった.またOTも参加している家族会にて,まき割りや稲刈り等の野外活動を通して自己身体の認識が高まった.介入後期は,より効率的で適応的な姿勢運動パターンを経験することを介入方針とした.揺れ遊具上での活動展開を増やし,遊具上を移動することや目標物へのリーチなどの機会を提供した.介入9か月後には,柔らかく狭い支持面上で両上肢を操作的に用いる様子や他児の動きを真似して,姿勢コントロールが必要とされる未経験の活動へ参加する様子が見られた.家庭では家族と一緒にマラソンや登山の大会に出場する等,自ら身体を使った活動に取り組むようになった.
【結果】介入後のCOPMは遂行度7/満足度10に向上した.保護者からは,「食事中に食事や飲み物をこぼす前に気づいて姿勢を変えるようになった,荷物を持って傘をさせるようになった」と報告があった.
【考察】日常生活動作の困難さの背景にある姿勢保持の問題に,家族と協同しながら関わった.個別OTでの遊びを通した介入と家庭での活動により姿勢安定性が高まり,上肢が目的的な運動を行いやすいよう,姿勢を調整できるようになったと考える.