第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-5] ポスター:発達障害 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PI-5-4] こどもの参加質問紙:自閉スペクトラム症児の疾患特異的参加測定ツールの開発

中村 拓人1, 長山 洋史1, 笹田 哲2 (1.神奈川県立保健福祉大学リハビリテーション学科, 2.神奈川県立保健福祉大学神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)

【序論】
作業療法にクライエントの参加の障壁を認識し, 支援を計画するために, 測定ツールの使用が求められる. 現在, 多く参加測定ツールが開発されているが, そのほとんどは, 障害の種別を問わず利用可能な汎用的測定ツールである. 汎用的測定ツールは, 多くの場合, 障害のない人々を対象に項目が開発される. そのため, 疫学研究での使用を適している反面, 障害のある人々の支援に有用な項目が不足する. 一方で, 疾患特異的測定ツールは, 特定の疾患の特徴を反映した項目で構成され, 治療計画の立案や効果測定に有用となる. 自閉スペクトラム症(ASD)は作業療法の主要な対象疾患であるが, 疾患特異的参加測定ツールが存在しない. そこで筆者らはASD児の疾患特異的参加測定ツールである「こどもの参加質問紙(PQP)」の項目開発研究を行ってきた. 本研究ではPQPの尺度開発を行い, その構造的妥当性・内的整合性を検証し, 標準スコアを明らかにすることを目的とする.
【方法】
対象者は以下の基準を満たすASD児の養育者だった:(1)神経発達症以外の合併症を有さない, (2)知能指数が50以上である, (3)36-83ヶ月の未就学である. データは2種類の方法で収集された. 第1は全国の56の研究協力施設(医療機関あるいは児童発達支援施設)の職員に利用者に質問票の配布を依頼した. 第2は, 発達障害に関する情報提供サイトのメーリングリストで参加希望者を募集した. 質問票にはPQPのほかに, 短縮版感覚プロファイル(SSP), 対人コミュニケーション質問表(SCQ), 家族環境評価尺度(SFE-J), 人口統計学的質問表が含まれていた. データ分析は, 項目削減分析としてPQP各項目の回答で「わからない」が選択された確率, 天井効果とフロア効果, Item-Total相関分析が用いられた. 構造的妥当性の検証には探索的因子分析, 内的整合性の検証には各因子のCronbach's alpha が用いられた. 本研究は神奈川県立保健福祉大学の倫理審査委員会の承認を得て実施された.
【結果】
287件の有効回答が得られた.「わからない」の回答率が10%を超えた1項目が削除された.さらにPQPの回答に欠損や「わからない」の回答のない196件でItem-Total相関分析を行い, 相関係数の低い3項目が削除された. 11項目で天井効果, 1項目で床効果が確認されたが, いずれの項目もすべての回答オプションが選択されていたため削除しなかった. 探索的因子分析では, スクーリープロットから4因子が選択され, 質問の内容やPQP以外の質問紙で得られたデータとの関連から以下の命名がなされた:①友だちと先生, ②家族の悩みごと, ③日常生活, ④余暇と地域参加. ①と④で各1項目が0.25以下の因子負荷量を示したため削除された. 内的整合性は因子①と②では0.8以上, 因子③と④では0.7以上だった. 年齢, SSP, SCQとPQPとの相関は仮説と一致していた. SFEとの相関は想定よりも低かったが, 家族生活と関連の高い因子④とは中等度の相関を認めた. 各因子のパーセンタイル値が算出され, いずれの因子も1未満および95以上のパーセンタイル値の回答者を識別できた.
【考察】
幼児期のASD児が使用できる初めての日本語の参加測定ツールが開発された. 測定特性の検証はCOSMINの推奨する研究デザイン要件を満たしており, PQPは十分な構造的妥当性と内的整合性を有していた. しかし, 複数の項目が削除されたため, 今後は内容妥当性の再検証が求められる.また, 今後は縦断的な測定特性の検証を実施することで, 再テスト信頼性や反応性, MCIDの算出などを明らかにできる.