[PI-5-5] 自閉スペクトラム症児の食行動の問題と関連要因
【はじめに】
自閉スペクトラム症(Autism spectrum disorder; ASD)は,神経発達症(Neurodevelopmental Disorders; NDD)のひとつであり,社会的相互作用の質的障害,コミュニケーション障害,反復的・常同的行動を特徴とする疾患である.ASD児の保護者の困りごとでは,食行動の問題が多く報告されているが,ASDに併存する多くのNDDの影響により,その詳細は明らかでない.本研究は,精神疾患診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition; DSM-5)により診断された併存疾患のないASD児を対象に,食行動の問題およびその原因について調査を行った.
【方法】
対象は,A市5歳児発達健診の二次健診を受診した276名のうち, NDDの診断がないNDD診断なし群(n=17)とASDのみの診断がついたASD群(n=16)とした. 対象者の保護者には,食行動の指標であるASD-Mealtime Behavior Questionnaire (ASD-MBQ)(nakaoka,2019)のほか,ASD症状の指標である対人応答性尺度(Social Responsiveness Scale; SRS-2)と感覚プロファイル(Sensory Profile; SP)について回答してもらった.食行動の問題の群間比較にはMann- Whitney U検定を用いた.食行動の問題とASD症状との関係は,Spearman 順位相関係数をもとめ関連性を検討した後,食行動の問題と関連するASD症状については重回帰分析(変数減少法)を用いて影響度を確認した.これらの検定にはSPSS28.0を使用し,危険率5%未満を統計学上有意,危険率10%未満を傾向ありとした.なお,本研究は弘前大学医学研究科倫理審査会の承認(2015-055,2018-168)を得た上で実施され,報告すべきCOIはない.
【結果】
ASD-MBQの群間比較では,ASD群は「偏食」の因子得点が有意に高く,偏食の問題が重度であった(p<0.05). ASD-MBQ「偏食」の因子の下位項目得点の群間比較では,ASD群は「偏食がある」の得点が有意に高かったほか(p<0.05),「外見で食べないものがある」「外食先が限定・制限される」「味が混ざるのを嫌がる」の3項目の得点が高い傾向であり(p<0.1),これら4項目が「偏食」の因子得点増加に関わる質問項目であった.ASD-MBQの「偏食」の因子得点とASD症状との相関では,SRS-2のRRB T得点(rs=0.62),SPの聴覚(rs=0.39),口腔感覚(rs=0.41)の得点との間に有意な正の相関が認められた(p<0.05).重回帰分析の結果, これらのうちASD-MBQの「偏食」の因子得点に影響を及ぼす要因として抽出された項目はSPの口腔感覚のセクションスコアのみであった(B=0.899,β=0.624,p<0.05).
【考察】
本研究の結果,ASD児の食行動の問題は偏食のみであり,その要因には口腔感覚特性の関与が明らかとなった.ASD児に偏食が多いこと,偏食に口腔感覚特性が関与することはすでに知られており,本研究はこれを支持した.一方で,ASD児の食行動では,過食になりやすい,箸が上手く使えないといった報告があるが,本研究ではこれらの特徴はみられなかった.これは注意欠如・多動症や発達性協調運動障害などASDに併存しやすいNDDによるものと推察された.また,今回ASD児の特徴として,「外食先が限定・制限される」という質問項目が挙げられた.これは,偏食が行動の制限につながった可能性があり,これまでに報告がないことから新たな視点であると考える.今回, NDDの併存がないASD児を対象に解析を行ったが,ASDにNDDが併存する率は高く,対象者数が少なくなった.今後は調査を継続し,対象者を増加させることでより信頼性の高い結果を得る必要がある.
自閉スペクトラム症(Autism spectrum disorder; ASD)は,神経発達症(Neurodevelopmental Disorders; NDD)のひとつであり,社会的相互作用の質的障害,コミュニケーション障害,反復的・常同的行動を特徴とする疾患である.ASD児の保護者の困りごとでは,食行動の問題が多く報告されているが,ASDに併存する多くのNDDの影響により,その詳細は明らかでない.本研究は,精神疾患診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition; DSM-5)により診断された併存疾患のないASD児を対象に,食行動の問題およびその原因について調査を行った.
【方法】
対象は,A市5歳児発達健診の二次健診を受診した276名のうち, NDDの診断がないNDD診断なし群(n=17)とASDのみの診断がついたASD群(n=16)とした. 対象者の保護者には,食行動の指標であるASD-Mealtime Behavior Questionnaire (ASD-MBQ)(nakaoka,2019)のほか,ASD症状の指標である対人応答性尺度(Social Responsiveness Scale; SRS-2)と感覚プロファイル(Sensory Profile; SP)について回答してもらった.食行動の問題の群間比較にはMann- Whitney U検定を用いた.食行動の問題とASD症状との関係は,Spearman 順位相関係数をもとめ関連性を検討した後,食行動の問題と関連するASD症状については重回帰分析(変数減少法)を用いて影響度を確認した.これらの検定にはSPSS28.0を使用し,危険率5%未満を統計学上有意,危険率10%未満を傾向ありとした.なお,本研究は弘前大学医学研究科倫理審査会の承認(2015-055,2018-168)を得た上で実施され,報告すべきCOIはない.
【結果】
ASD-MBQの群間比較では,ASD群は「偏食」の因子得点が有意に高く,偏食の問題が重度であった(p<0.05). ASD-MBQ「偏食」の因子の下位項目得点の群間比較では,ASD群は「偏食がある」の得点が有意に高かったほか(p<0.05),「外見で食べないものがある」「外食先が限定・制限される」「味が混ざるのを嫌がる」の3項目の得点が高い傾向であり(p<0.1),これら4項目が「偏食」の因子得点増加に関わる質問項目であった.ASD-MBQの「偏食」の因子得点とASD症状との相関では,SRS-2のRRB T得点(rs=0.62),SPの聴覚(rs=0.39),口腔感覚(rs=0.41)の得点との間に有意な正の相関が認められた(p<0.05).重回帰分析の結果, これらのうちASD-MBQの「偏食」の因子得点に影響を及ぼす要因として抽出された項目はSPの口腔感覚のセクションスコアのみであった(B=0.899,β=0.624,p<0.05).
【考察】
本研究の結果,ASD児の食行動の問題は偏食のみであり,その要因には口腔感覚特性の関与が明らかとなった.ASD児に偏食が多いこと,偏食に口腔感覚特性が関与することはすでに知られており,本研究はこれを支持した.一方で,ASD児の食行動では,過食になりやすい,箸が上手く使えないといった報告があるが,本研究ではこれらの特徴はみられなかった.これは注意欠如・多動症や発達性協調運動障害などASDに併存しやすいNDDによるものと推察された.また,今回ASD児の特徴として,「外食先が限定・制限される」という質問項目が挙げられた.これは,偏食が行動の制限につながった可能性があり,これまでに報告がないことから新たな視点であると考える.今回, NDDの併存がないASD児を対象に解析を行ったが,ASDにNDDが併存する率は高く,対象者数が少なくなった.今後は調査を継続し,対象者を増加させることでより信頼性の高い結果を得る必要がある.