第57回日本作業療法学会

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ポスター

発達障害

[PI-6] ポスター:発達障害 6

Fri. Nov 10, 2023 5:00 PM - 6:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PI-6-3] 重症心身障害児に対する視線入力装置を用いた意思表出支援

加藤 実帆子1, 戸塚 香代子1, 加藤 直樹2, 高橋 香代子3 (1.川崎市中央療育センター, 2.横浜医療福祉センター港南, 3.北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科)

【はじめに】重症心身障害児は意思表出手段が非常に乏しい.本人の表情や,全身状態の細かな変化に気づき,本人の気持ちを汲み取ることが求められる.今回,重症心身障害児に対して視線入力装置と視線入力ソフトを用いたコミュニケーション支援を実施したため報告する.
【症例紹介】白質ジストロフィーの診断を受ける小学校6年生,男児.大島の分類は1である.作業療法では以前より,不定期で視線入力装置を用いた活動を行っていた.大きな音で反射や筋緊張の亢進を引き起こすことがある.日常的に発作がみられ,特に覚醒が低い時や疲労度が高い際に多い.快反応としては笑顔や高い声での発声,手足をパタパタと動かす,不快な時には身体を反らし唸るような低い声を出す.
【介入方法】視線入力装置はTobii EyeTracker 4Cを,ソフトは視線入力訓練ソフト「EyeMot 3D Game00」を使用し,眼球運動を定量的に測定した.パソコン画面を21.3インチのディスプレイに接続し,ディスプレイ固定器具であるパソッテルを用いて画面を対象児が見やすい位置に設定した.実施手順は,1日3回,3ヶ月間の期間で合計10回実施した.視線移動距離と射的スコアを用いて,眼球運動の随意性と正確性を評価し,初回評価から最終評価までの変化を観察評価と共に検討した.さらに,エアハート発達学的視覚評価と,先行研究をもとに作成した表出チェックリストを1日目と10日目に実施し,視線入力装置を繰り返し用いることによる視覚機能と意思表出の変化について検討した.
【経過と結果】 初期(1日目~3日目):音楽が流れると画面の方向へ定位し,画面の光に気づくと画面全体に視線を向けていたが,眼球の動きは不安定であった.回数を重ねるごとに,画面上方に視線が偏り,視線移動距離・射的スコアが低くなった.筋緊張が高まり身体が反り返ることで画面に注目しづらいことがある一方で,頭部及び姿勢が安定すると眼球の動きも落ち着き,動く対象へ注目できることもあった.活動の後半になると疲労がみられ,姿勢や頭部を保持できず視線が画面から大きく外れることが増えた.中期(4日目~7日目):開始時の覚醒は低いが,音が聞こえると覚醒が向上した.6日目と7日目は,開始直後から画面に視線が向き,笑顔がみられ,手足をパタパタと動かし期待するような仕草と活動を楽しんでいる様子が観察された.また日により程度は異なるが,活動後半で覚醒低下と疲労が観察された.後期(8日目~10日目):服薬によるてんかん発作のコントロールが上手くいかない時期であった.実施中は一貫して覚醒が低く,活動の中で脱力と筋緊張が亢進する様子が観察された.姿勢は不安定であり,眼球の動きも安定せずまばらな動きがみられた.初期・中期と比較すると,視線の移動距離と範囲は減少し,視線移動に連続性がみられにくかった.エアハート発達学的視覚評価および表出チェックリストでは,眼球運動と意思表出について1日目と10日目で変化は見られなかった.
【考察】視線入力装置を用いたことによる意思表出方法としての有効性と眼球運動に明らかな定量的変化はみられなかった.しかし,因果関係への反応に高まりが観察され,コミュニケーションの初期段階である気づきへの効果が期待された.視線入力装置は,発達に応じた課題の段階づけと環境設定により重症心身障害児の意思表出支援の一助となることが示唆された.重症心身障害児の意思表出の評価は受け手の主観的な受け取りとなるため,児のわずかな表出を出来る限り取りこぼすことなく評価し,より丁寧な関わりを行うことが求められると考える.