第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-6] ポスター:発達障害 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PI-6-4] 重篤な呼吸障害を有する重症心身障害児の施設生活支援

藤田 瑠璃花 (重症児・者福祉医療施設 ソレイユ川崎)

【はじめに】重症心身障害児(以下重症児)に見られる呼吸障害は,生命維持に直結しながら,同時に様々な発達経験を制限することになり,作業療法士には,多岐にわたる生活支援の技術が求められる.ここでは,当施設に入所中の一事例の約5年間にわたる経過を,考察を加えて報告する.尚,本報告は後見人の同意と法人倫理委員会の承認を得ている.
【事例】11歳男児,多嚢胞性脳軟化症,てんかん.大島分類1の重症児.0歳時に気管切開,喉頭気管分離,胃瘻造設施行.3歳8ヶ月当施設入所時には既に閉塞性及び拘束性換気障害が著明であり,中枢性の低換気症状も呈していた.上半身の屈筋痙性の影響で,右側臥位姿勢が定型的になる中で生じたと推察される胸郭樽状変形が進行していた.
人の関わりを好み笑顔を見せるが,感覚過敏性によって痙攣発作に繋がってしまうことが多くある.また感情の高まり等で自転車のペダルを漕ぐような「足蹴り」が特徴的な動きであった.
【問題点と治療方針】筆者が担当し始めた5歳時には,既に明らかな樽状胸郭変形を呈しており,機能的残気量が多い慢性閉塞性呼吸症状と,これに関連した嘔吐も見られた.頻繁に必要となる医療的ケアの中で,幼少期に必要な,色々な姿勢で動き発散することや,遊びを広げ他者との相互関係を育むこと,等の生活経験が乏しくなっていた.そのために,安全安楽で呼吸機能に有益な日常姿勢を定着させていき,病棟生活や通学に伴う豊かな活動を具体的に広げていくことを計画した.
【経過】(1)5歳時低覚醒による浅呼吸や排痰困難な状況に対し,OTの膝の上で腹臥位をハンドリングし,呼気と排痰を促すとともに,前庭・体性感覚刺激によるやり取りを楽しむ時間として利用した.ハンドリングによる腹臥位姿勢に慣れてきたころから,ベッド上で短時間,いくつかのクッションによる腹臥位を看護師に伝達し,実施できるようになった.
(2)7歳時,本児に合わせて再現性のよい腹臥位装置を作製し,同時期に発足した「呼吸ケアチーム」で使用方法を検討しながら定着させていったところ,①発散的な「足蹴り」が不活発になっている腹部前面筋群の収縮を促す機会となり,②活動に参加し,機嫌のよい時に見られる頭部の自発運動が,上肢外転位での脊柱伸展を誘発し,胸郭運動を柔軟にする,といった効果に繋がった.
(3)9歳時以降,それまでの成果を多職種連携の姿勢ケアとして定着し,現在では週4回院内学校で30分以上,週3回病棟で1日2回30分以上腹臥位姿勢が活動に応用できるようになった.また同時に前傾座位保持装置も効果的に使用でき,生活場面が拡大していった.
【結果】腹臥位姿勢が日常姿勢の一つとして定着したため,屈曲優位の定型運動パターンから,頭部の自発運動が促され,脊柱の伸展と対称性が改善した.また過膨張している胸郭前面の自重による持続的な圧が,吸気位になっている胸郭をしぼめ,残気量を減少させる効果に繋がった.そのことにより平定化し機能低下していた横隔膜の協調運動が回復し,嘔吐が減少した.そして感覚過敏性が減少し,交流における多くの刺激を受容しやすくなった.また背臥位,左側臥位等,日常姿勢の多様性に繋がり,活動の広がりに加え,排泄や更衣等の介助の受けやすさにも繋がった.
【考察】本児の生育経過のように日常姿勢が定型的になると,変形・拘縮と呼吸障害との悪循環を生じ,結果的に幼少期に必要な活動が制限されやすい.重症児の作業療法において,幼少期からの姿勢管理,とりわけ呼吸機能に有利な腹臥位のポジショニングは,安全な生活空間と経験を広げるという意味でも積極的に取り入れられるべきである.