第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-7] ポスター:発達障害 7

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PI-7-1] 幼若期ラットにおける前肢運動野の成熟とリーチ動作の変化

岩崎 也生子1, 藤澤 祐基2, 大城 直美1, 丹羽 正利1, 村松 憲2 (1.杏林大学作業療法学専攻, 2.杏林大学理学療法学専攻)

【はじめに】「不器用さ」を伴う発達性協調運動障害(DCD)は,学齢期5%から11%に存在し,日常生活のみならず教育場面においても困難さが見受けられ,作業療法の運動発達支援のニーズは高まっている.これまで,DCD研究は主として行動学的特徴の評価や介入効果を対象に行われる一方,その成因と考えられている随意運動を制御する神経機構の成熟の遅れに関する研究はほとんどなされていない.これは,発達段階にある小児に対して経頭蓋磁気刺激などを行うことに倫理的,技術的問題があるためであり,ヒトを対象とした研究の限界である.そこで我々は,ヒトの幼児期から学齢期にあたる4−8週齢のラットの大脳皮質運動野上肢領域の発達とそれに伴うリーチ動作の巧緻性の発達との関連を調べることによって,神経機構の成長が「器用さ」にどのように関与するのか明らかにし,DCDの成因を理解する基礎的データを得ることを目的に本研究をおこなった.
【方法】合計64匹のWistar系雄ラットを用いた(4週齢[W]:n=13,5週齢:n=15,6週齢:n=12,7週齢:n=12,8週齢:n=9).大脳皮質における前肢の運動再現は,皮質内微小電気刺激(ICMS)を用いて確認した.さらに,手関節背屈筋からICMSによって誘発される運動誘発電位(MEPs)および橈骨神経刺激によって誘発された最大振幅の筋電図(M-max)を記録した.行動解析は,1週間ごとに握力とエサへのリーチ課題時の前肢の動きを測定した.リーチ動作の評価には,11の構成要素と35のサブカテゴリからなるReaching movement rating score(Metzら, 2000)を用いた.手関節背屈筋の成長は,同筋の横断切片から筋線維の短径を測定し,それを指標とした.解析にはPrism9を用いて,各週齢を対象に一元配置分散分析にて解析した.本研究は,杏林大学動物実験委員会の倫理規定に従い実施した.
【結果】前肢運動野の面積は4Wで2.0 ± 0.5 mm2,5Wで4.0 ± 0.89 mm2に拡大し,その後は変化しなかった(p<0.01).MEPsの振幅(4W:0.38±0.14 mV, 5W:1.043±0.15 mV),MEPs/M-max (4W:1.736±0.44 mV, 5W:4.725±0.47 mV),手関節背屈筋線維の短径(4W:20.84μm±1.49, 5W:24.14±1.49μm)についても同様に4Wから5Wにかけて増加が観察された(p<0.01).さらに,ICMSの電気的閾値(4W:43.16±2.01μA, 5W:34.90±1.92μA)は,4Wから5Wにかけて低下を認めた(p<0.01).この間,大脳皮質運動野前肢領域の刺激によって誘発される運動は,4Wで手関節背屈と肘屈曲,5Wで指屈曲,6W以降で指伸展と肩伸展が加わっていった.これらの運動表現の変化と並行して,リーチ動作得点(4W:19.0点, 5W:24.75点, 6W:28.0点, 7W:30.0点, 8W:33.0点)と握力(4W:409.0g, 5W:542.7g, 6W:687.0g, 7W:851.2g, 8W:973.3g)は週を追うごとに上昇した.また,リーチ動作得点では,前腕の回内及び把持の手指の協調性及び巧緻性に関する項目に得点の上昇が確認された.
【考察】これらの結果は,ラットが4週齢から5週齢の間に運動野面積の劇的な拡大と脊髄とのシナプス結合の強化が生じ,筋出力が増加する一方,5週齢以降では,運動野に再現される前肢運動の種類の増加とリーチ運動の質的変化が起こることが明らかになった.これらの結果は,巧緻動作の発達には特定の成長段階において生じる運動野の内部成熟が必要である可能性を示している.今後,本研究で明らかとなった神経機構の発達と行動発達との関連を基に,DCD改善に有効な作業療法の時期,手法について調べていきたい.