第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-7] ポスター:発達障害 7

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PI-7-2] 片麻痺を呈する小児脳損傷におけるCI療法の効果についての後方視的検討

竹下 晃1,2, 井上 和博3, 簗瀬 誠3 (1.独立行政法人国立病院機構南九州病院, 2.鹿児島大学大学院保健学研究科, 3.鹿児島大学医学部保健学科臨床作業療法学講座)

【はじめに】
小児において,脳性麻痺などの脳損傷により片麻痺が生じた場合,麻痺側上肢は発達過程で学習された不使用の状態となる.そのため麻痺側上肢の機能改善と日常生活での使用を促していくことが重要である.Constraint-induced movement therapy(CI療法)は片麻痺に対する治療法としてエビデンスが確立されている.しかし本邦の小児領域では海外との医療制度の違いや,評価,実践方法の困難さなどから,普及していないのが現状である.本研究は,当院で実践している小児へのCI療法における上肢機能,手指機能,日常生活への効果を検討することを目的とした.そのために,CI療法の治療前後での上肢機能,手指機能,日常生活における麻痺側上肢の使用頻度,動作の質の変化を数量化し統計解析を用いて考察する量的分析と,症例の経過から日常生活における量的な評価で把握できない麻痺側上肢の変化を考察する質的分析を行った.本研究は南九州病院倫理審査委員会の承認(承認番号:2022.05.10(作業))を得て実施した.発表者に開示すべきCOIはない.
【方法】
本研究は2016年10月~2022年10月の期間のカルテ記録を用い,データを収集する後方視的研究として実施した.該当期間にCI療法を行った9例(男児4例,女児5例:1歳~5歳)を対象とした.
量的分析ではPediatric Motor Activity Log-Revised(PMAL-R)のHow often(HO)とHow well(HW),Brunnstrom Recovery Stage(BRS)の上肢,手指のデータを使用し,治療前後での変化をWilcoxonの符号付順位和検定にて分析し,効果量rの算出も行った.質的分析では症例ごとの経過を一覧にまとめ,経過をもとに麻痺側上肢の機能面や日常生活面での変化を分析した.当院での小児へのCI療法は母子入院にて3週間(平日9時から17時まで)実施し,多職種,家族と連携して取り組んでいる.
【結果】
量的分析では,PMAL-Rの治療前後で,HOの中央値は0.47点から1.38点(p<0.01,r=0.89;効果量大),HWの中央値は0.76点から1.45点(p<0.01,r=0.89;効果量大)に変化し,ともに有意な増加が認められた.BRSは治療前後で,上肢では中央値が3から4(p<0.01,r=1.00;効果量大)へ変化し,有意な増加が認められ,手指では中央値が3から4(p=0.317,r=0.33;効果量中)へ変化したが,有意な増加は認められなかった.質的分析では,治療後に全症例で麻痺側上肢を遊びに参加させる場面が増え,治療前に手指の随意的な動きが可能な症例では,把持を伴う両手動作や補助手的な使用の増加がみられた.また,手指の随意的な動きが困難な症例でも両手で物を運ぶなどで使用するようになった.
【考察】
PMAL-RのMCIDについてLinら(2012)はHOで0.39~0.94の範囲を,HWで0.38~0.74の範囲を超える必要があると述べている.本研究ではHO,HWの中央値の変化はMCIDを超えた改善がみられた.MCIDと効果量を用いた分析により,CI療法は麻痺側上肢の使用頻度,動作の質において,臨床的に意味のある変化をもたらす可能性があると考える.質的分析では,手指の随意的な動きが困難な症例も日常生活での両手動作につながり,Gordonら(2007)の手指の重度麻痺に対するCI療法で両手動作の個々の目標が改善した報告と類似した結果となった.量と質の分析により,当院で実践している小児へのCI療法は麻痺側上肢の機能,日常生活での使用頻度,動作の質の改善に一定の効果があり,麻痺側上肢の使用行動の変化に寄与できる可能性があると考える.本研究は症例数の少なさや,後方視的研究であることから,効果として一般化できないことなどが研究の限界である.今後はよりエビデンスレベルの高い手法を用いた研究が必要である.