第57回日本作業療法学会

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ポスター

発達障害

[PI-7] ポスター:発達障害 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PI-7-3] 課題分析をともに行うことで合意目標の獲得に至った症例

岩井 萌1, 岩井 伸幸1, 前田 幸志1, 稲富 惇一2 (1.サンテ・ペアーレクリニックリハビリテーション科, 2.土佐リハビリテーションカレッジ作業療法学科)

【はじめに】
 発達性協調運動症(以下,DCD)の特徴の一つに,運動技能の遂行における遅れや不正確さなどが挙げられ,DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアルでは困難な例として“自転車に乗る”ことが記載されている.日本では約2人に1台の割合で自転車を保有しているほど(国土交通省,2020)重要な移動手段であるが,DCD児の自転車運転に対して作業療法士が介入した報告数は少ない.今回,自転車に乗ることを希望するDCD児に対して課題を相互的に分析しながら介入したところ,目標を達成できたため報告する.なお本報告に関して本症例と保護者に十分に説明し書面にて同意を得ている.
【対象】
 DCDと学習障害を有する10歳代歳男児で普通小学校の支援学級に通学中.希望は中学校への通学手段として「自転車に乗りたい」で,作業療法を週に1回3単位実施.自転車運転の初期評価として介助者がサドルを支えた状態では,体幹が不安定でペダルやハンドル操作の拙劣さが見られ,自走は困難であった.バランスボード上での立位保持は7秒で,過度な上肢・体幹の平衡反応が出現していた.本症例と課題について話し合ったところ「バランスが良くなれば自転車に乗れるようになると思う」との意見が聞かれた.臨床仮説としても,バランスの不安定さが四肢の運動に悪影響を及ぼすことで,ペダルやハンドル操作の拙劣さを助長させ自転車運転が困難になっていると考えた.以上から,合意目標を“バランス能力が向上し自転車で直線走行ができるようになる”と設定した.
【介入】
 介入は①バランス能力向上,②自転車を想定した類似課題,③自転車運転の3段階とし,実施回数は全12回であった.①では,バランスボード上での立位保持を反復し,1分間保持可能になった上で四肢・体幹の分離・協調性向上のためキャッチボールを行った.②では,体幹の安定性向上が四肢間の運動連結やバランスに必要である(藤本ら,2013)ことから,体幹の伸展活動を促しエルゴメーターでのペダリング実施.体幹の安定・上肢の適度な筋緊張・ペダル操作が協調的になった段階で,自転車の不安定さを再現するためにサドル部分をバランスボードに置き換えた.③では,②の動作が安定した上で,公園での自転車運転練習を行った.
【結果】
 合意目標が達成された上,公園内で旋回も可能になり,本症例からは「楽しい!もっと自転車に乗りたい」と笑顔での発言が聞かれた.また,縄飛びやマット運動の前転・後転が可能になった.
【考察】
 合意目標の到達と他の動作獲得に般化した理由について,目標や課題を協議したこと,バランス能力に着目し介入したことが良かったと考える.子ども自身が目標達成に向けた課題を考え解決する方向に行動することは楽しさを最適化させ,主体的に楽しく取り組むことは運動学習の促進に寄与する(Novak et al.2019;伊藤ら,2009)ことから,自転車運転の獲得に至ったと推察する.加えて,自分でできた体験は成功体験へと繋がりやすく,尚且つ他の動作の動機付けにも般化するため,他の動作獲得に至ったと示唆する(倉,2021;林原ら,2021).バランス能力においては全ての動作の基盤であり(望月,2021),協調運動の向上と他の動作獲得に寄与したと思われる.今後は中学校への通学を想定した道路や不整地での練習に加え,交通ルールの学習を行っていく予定である.自転車運転が実際場面で活用できるようになり,通学手段のみならず,友達と遊ぶ際の移動手段となりQuality of lifeの向上に繋がっていくことを願う.