第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-7] ポスター:発達障害 7

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PI-7-6] 先天性四肢形成不全児の把持機能獲得の一例

谷口 恵美1, 土屋 景子2 (1.川崎医科大学附属病院リハビリテーションセンター, 2.国際医療福祉専門学校)

【はじめに】先天性四肢形成不全は1万生存出生あたり4.15人(芳賀,2021)と報告されており稀な疾患である.表現型に応じて治療が選択され,義手治療の作業療法(OT)の報告は散見される.しかし,母指~環指の手指形成不全に対する装具療法の報告は見当たらない.
【目的】今回,手指形成不全児の把持機能獲得を経験したので作業療法アプローチの一例として報告する.尚,発表について母親に説明し同意を得た.
【症例紹介】2歳2カ月女児.在胎38週3日,出生時体重2003gであった.生後1カ月時に当院小児科紹介受診,生後5カ月リハ科に紹介され月2回の外来OTが開始となった.
【開始時評価(生後5カ月)】四肢の形態は手掌と足部ともに第5指のみ残存,運動発達は定頸あり,寝返り,座位は不可であった.小指関節可動域は,右/左(自動関節可動域,単位は°),MP屈曲20(0)/35(10),伸展0(0)/0(0),PIP屈曲90(30)/0(0),伸展-10(-10)/0(0),DIP屈曲20(10)/90(90),伸展0(0)/0(0)であった.指尖-手掌距離(他動)は,右1cm,左2cmであった左右とも物品把持は困難であるが,左右小指でおもちゃの輪部分を引っ掛け口元に持っていくことは可能であった.生後8カ月,津守式乳幼児発達質問紙での発達年齢は6カ月17日であった.
【経過】治療プログラムは,運動発達促進アプローチ,関節可動域運動,把持獲得目的の遊びとした.開始時,運動発達促進アプローチと指導とともに装具作成を開始した.生後7カ月装具装着に慣れること,将来的に物品把持機能の獲得を目的とし右手に装具療法を開始した.装具は小指の部分に穴をあけ手掌全体を覆う形のもので,手掌の一部を高くし小指屈曲時に小指と接触し物品が挟みやすいようにした.毎日30分程度を3~5回程度自宅で装着した.生後11カ月,装具なしの右手で一辺約2cmの立方体の把持可能となり遊ぶ際には装着を嫌がるようになった.生後12カ月には装着しなくなり装具療法を一旦終了した.OTでは小指屈筋の筋力強化を行い,把持機能向上を目的とした遊びを実施した.生活面ではスプーン,歯ブラシなど持ちやすい形状を評価し練習した.
【結果(2歳2カ月)】右手は,抗重力位でも一辺が2cm以上の物品の把持可能となり物品の操作性が向上した.左手は,一辺が3cm以上の物品の把持可能となった.スプーンの把持は右手のみで可能であるがスプーンに重みが加わる時は両手掌で挟んだ.歯磨きは同様の把持でリング式のもの使用した.2歳2カ月時での新K版式発達検査の発達指数は,姿勢・運動12カ月,認知・適応18カ月言語・社会9カ月,全領域16カ月であった.
【考察】小児義手使用者が義手を使用しなくなる要因として,機能の不十分,不快感とされ(Glynn,1986) ,また2歳未満の電動義手導入は継続するが成長に伴い義手が児のニーズを満たさなくなり使用中止の例も多い(戸田,2019)と報告されている. 義手の場合と同様であるとは一概には言えないが,導入が生後7カ月という時期は良好であった.しかし,生後11カ月から装具なしで把持可能となり,さらに把持能力が向上し本人的な装着意義がなくなり装着は把持の阻害,不快感となり装具療法の中止に繋がったと考える. しかし一方で,把持獲得のための小指筋力強化は把持能力を向上への有効なアプローチであったと考えられる.今後,発達に伴い把持に対するニードの変化,装着意義の理解が得られ装具療法のニードが高まる可能性がある.残存する小指の能力を最大限に生かしながらADLの獲得を目指す.