第57回日本作業療法学会

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ポスター

発達障害

[PI-8] ポスター:発達障害 8

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PI-8-5] 青年期の痙性両麻痺児にトップダウン評価を行い,介入計画の立案・介入を実施したことで作業遂行の質に変化が認められた事例

友田 直哉 (社会福祉法人 愛徳福祉会 大阪発達総合療育センター)

【はじめに】作業に焦点を当てて治療を行う作業療法士にとって,トップダウン評価を行い介入計画を立てることは重要である.今回,本事例を通してADLの質を測定する評価ツールであるAssessment of Motor and Process Skills(以下,AMPS)を用いて評価・介入計画を立案及び介入し,作業遂行の質が向上したため報告する.本報告は本人,家族の同意及び院内倫理委員会の承認を得た.
【事例紹介】地域高等学校に通う16歳男児.診断名は脳室周囲白質軟化症による脳性麻痺,障害名は痙性両麻痺である.成育歴は29週5日,1442gで出生し,Apgar score 2/7,人工呼吸管理2日間だった.当院では1歳8ヶ月時に初診,通園措置を経て定期的な入院による作業療法,理学療法(以下,OT,PT)のリハビリテーション(以下,リハ)を実施していた.10歳,15歳時に下肢に対する整形外科的手術を施行した.家族構成は父,母,本人の3人家族である.
【評価】利き手は左手.GMFCS-III,MACS-II,CFCS-Iである.STEFは右69点,左83点. ADLはFIM運動70点,認知34点であった.移動は屋内では伝い歩き又はクラッチ歩行,長距離では車いすを使用していた.活動時には独座は可能だが,骨盤後傾し右臀部での支持が難しく右に身体が崩れる傾向があった.視知覚評価はTVPS‐4 11歳8ヶ月(15歳7ヶ月時),下位項目は連続記憶18歳6ヶ月,図地判別21歳,視覚閉合8歳6ヶ月であった.
面接評価にて本人よりニーズの1つとして「ボタン操作の向上」が挙がった.カナダ作業遂行測定(以下,COPM)を実施し,重要度7,遂行度3,満足度1であった.作業遂行能力の質の評価としてAMPSの課題「洗濯かごにある洗濯物をたたむ」,「上着の着替えー服は手に届く範囲」を実施し,運動技能 −0.1logits,プロセス技能 −0.1logitsであった.課題に対し,事前にオリエンテーションされたことを記憶し,畳んだ衣類を種類別に置くことや,気がそれることなく課題を遂行できた.しかし,遂行中に軽度から中度の疲労を示したことや,ボタンの掛け違いに気づけず遂行完了までに時間を要した.また,身体的努力の中度の増加が,ボタンを留める時の手内操作や両手操作の問題をもたらした.加えて,衣類を空間的に整えることに重度の問題が見られ,衣類にしわが目立った.
【介入計画】3週間のリハ入院においてOT,PT共に6回/週,各3単位実施した.介入として作業療法介入プロセスモデルを基に代償モデルでは空間での両手操作を補償するため,まずは床座位でなく,端座位で姿勢の安定を段階づけた.回復モデルでは視覚への依存が,姿勢の崩れや疲労に繋がるため,見なくても遂行できるように視野外での手指機能の向上に取り組んだ.習得モデルでは視知覚検査の記憶の強みを活かし,動作を言語化し,手順を統一した.
【結果】COPMは遂行度6,満足度5であった.再評価時のAMPSでは,ボタンを留める時の手内操作や両手操作の身体的努力が軽減し,課題遂行中の疲労が減少した.運動技能0.2logits,プロセス技能0.2logitsに向上した.ADL能力測定値の間に0.3logitsの変化が見られたため臨床上意味のある遂行上の変化が示唆された.
【考察】AMPSの活用で作業遂行中の記憶,集中力の強みや空間を使用するといった定量評価しがたい課題が明らかとなった.評価を基に介入計画を立案したことで本人のニードに即した介入が可能となりCOPMの点数改善に繋がった.本症例から経験の少ない療法士にとって,AMPS及びプロセスモデルを用いた作業療法の実践は,適切な評価とプログラム立案の指標になり得る.作業の質を評価し,「できるADL」を「しているADL」に近づける手段の一つになると考えられる.