[PI-9-2] 握り母指症への介入から発達障害への介入に移行した作業療法の1例
【はじめに】発達障害に対する作業療法では,一定の指標を基にした正常な発達過程の枠組みを考慮した評価を行い,介入手段を決定していくことが多い.今回,先天性母指握り症の症例に対しての介入を行っていたが,経過途中に運動発達遅滞がみられたため介入方法の再検討を行うことを経験した.その経過と結果から,個人の成長・発達に起因する目標や介入方法を決定することの重要性ついて考察したので報告する.
【目的】新生児期からの介入において,方法や目標の焦点が経過の中でどのように変化したかを検討して,その結果から介入の有効性を明らかにすること.
【説明と同意】本報告に際し,対象児の保護者に対して倫理的事項について十分な説明を行い,了承を得ている.
【症例】1歳男児.早産でNICU管理.出生後4日目に母指の屈曲内転に偏っている事が観察され,その後握り母指症の診断となった.1か月健診の際に手指の機能改善目的に作業療法開始となった.生後8か月に多発小奇形や定頸の遅れがみられ,運動発達遅滞の診断を受けた.
【評価】握り母指症に関しては両側ともに母指は握り込まれており自動外転はみられず,第1指間の狭小化もみられていた.生後8か月時点での遠城寺式乳幼児分析的発達検査表では,移動運動0:6,手の運動0:5,基本的習慣0:5,対人関係0:5,発語0:4であった.また,頚部後面から体幹背部にかけての筋緊張の低さが目立ち,座位では体幹背部を過剰に伸展させて固定するような座位姿勢をとっており,頚部の動きを伴う追視やリーチングが困難であった.鏡や音の出るおもちゃへは高い興味を示していた.人見知りはみられず,作業療法の受け入れは良好であった. 母親の希望は「他の子達と同じようなことができるようになって欲しい」であった.
【介入と経過】介入開始当初は握り母指症に対して,機能障害の改善に向けて手段としての作業に焦点の当たった介入を行った.生後1か月から8か月まではテーピングの装着と第1指間へのマッサージを自宅での実施方法の助言も含めて実施した.生後8か月からは母指対立位に向けつつ第1指間を拡げるようなスプリントを作製・提供した.その後より母指の吸啜等,手指機能の変化がみられた.しかし,全般的な発達の遅れがみられており,特に抗重力活動が困難であった.そこで,改善した手指機能を利用して作業遂行の向上を目的とした目標に焦点を当てた介入を実施することとした.具体的には,座位でのリーチングを伴うおもちゃでの遊びや,鏡のついたおもちゃを使用して頚部の動きを促すような介入を実施した.
【結果】1年経過した時点で,母指の自動伸展がみられるようになり,自発的な物品の把持が可能となった.座位の安定性が向上し,頚部の動きを伴う追視もみられた.しかし,体幹背部の安定性はまだ不十分なため,ずり這いやつかまり立ちといった抗重力活動の獲得には至らなかった.
【考察】今回,母親はNICU管理からの一連の経過を経験して,自身の子供を他の児と比較してしまい「何もできない」と感じる場面が多くなっていたようであった.そのため作業療法場面では本人の自発的な活動を促し「これができるようになっている」という児の変化を示すことを中心に関わった.また,そのような関わりを通して,目標設定や介入方法の選択の際に家族の希望や児の興味関心を中心に据えた介入ができたことで動作能力の改善に繋がったのではないかと考える.今後も「誰かと同じように」ではなく,児と家族の「こうして(させて)みたい」を介入の焦点として,手の機能改善でつかむことができた環境の理解を将来にわたる発達へと繋げるための介入を継続していく.
【目的】新生児期からの介入において,方法や目標の焦点が経過の中でどのように変化したかを検討して,その結果から介入の有効性を明らかにすること.
【説明と同意】本報告に際し,対象児の保護者に対して倫理的事項について十分な説明を行い,了承を得ている.
【症例】1歳男児.早産でNICU管理.出生後4日目に母指の屈曲内転に偏っている事が観察され,その後握り母指症の診断となった.1か月健診の際に手指の機能改善目的に作業療法開始となった.生後8か月に多発小奇形や定頸の遅れがみられ,運動発達遅滞の診断を受けた.
【評価】握り母指症に関しては両側ともに母指は握り込まれており自動外転はみられず,第1指間の狭小化もみられていた.生後8か月時点での遠城寺式乳幼児分析的発達検査表では,移動運動0:6,手の運動0:5,基本的習慣0:5,対人関係0:5,発語0:4であった.また,頚部後面から体幹背部にかけての筋緊張の低さが目立ち,座位では体幹背部を過剰に伸展させて固定するような座位姿勢をとっており,頚部の動きを伴う追視やリーチングが困難であった.鏡や音の出るおもちゃへは高い興味を示していた.人見知りはみられず,作業療法の受け入れは良好であった. 母親の希望は「他の子達と同じようなことができるようになって欲しい」であった.
【介入と経過】介入開始当初は握り母指症に対して,機能障害の改善に向けて手段としての作業に焦点の当たった介入を行った.生後1か月から8か月まではテーピングの装着と第1指間へのマッサージを自宅での実施方法の助言も含めて実施した.生後8か月からは母指対立位に向けつつ第1指間を拡げるようなスプリントを作製・提供した.その後より母指の吸啜等,手指機能の変化がみられた.しかし,全般的な発達の遅れがみられており,特に抗重力活動が困難であった.そこで,改善した手指機能を利用して作業遂行の向上を目的とした目標に焦点を当てた介入を実施することとした.具体的には,座位でのリーチングを伴うおもちゃでの遊びや,鏡のついたおもちゃを使用して頚部の動きを促すような介入を実施した.
【結果】1年経過した時点で,母指の自動伸展がみられるようになり,自発的な物品の把持が可能となった.座位の安定性が向上し,頚部の動きを伴う追視もみられた.しかし,体幹背部の安定性はまだ不十分なため,ずり這いやつかまり立ちといった抗重力活動の獲得には至らなかった.
【考察】今回,母親はNICU管理からの一連の経過を経験して,自身の子供を他の児と比較してしまい「何もできない」と感じる場面が多くなっていたようであった.そのため作業療法場面では本人の自発的な活動を促し「これができるようになっている」という児の変化を示すことを中心に関わった.また,そのような関わりを通して,目標設定や介入方法の選択の際に家族の希望や児の興味関心を中心に据えた介入ができたことで動作能力の改善に繋がったのではないかと考える.今後も「誰かと同じように」ではなく,児と家族の「こうして(させて)みたい」を介入の焦点として,手の機能改善でつかむことができた環境の理解を将来にわたる発達へと繋げるための介入を継続していく.