第57回日本作業療法学会

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ポスター

高齢期

[PJ-1] ポスター:高齢期 1

Fri. Nov 10, 2023 11:00 AM - 12:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PJ-1-4] 新型コロナウイルス(COVID-19)流行下における地域高齢者の主観的健康感の変化とその要因

瀬川 大1, 渡辺 裕生1, 菅沼 一平2 (1.大和大学保健医療学部 総合リハビリテーション学科 作業療法学専攻, 2.京都橘大学健康科学部 作業療法学科)

【背景】
 新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)は世界的な広がりをみせ,日本政府は2020年4月7日緊急事態宣言を発令し本調査の対象地域である兵庫県では,人と人との接触を避ける外出自粛の措置が講じられた.2023年1月時までに日本においては感染拡大が大きく8回(第1波から第8波まで)起こっている.本研究はCOVID-19感染拡大による外出自粛が高齢者の生活行為が制約され要介護リスクが助長されていると推察し,COVID-19流行下における行動制限が地域高齢者の主観的健康感の悪化にどのような影響を及ぼしているのかを調査した.
【方法】
初期調査として第2波後の感染者が減少し時期である2020年8月下旬から同年11月初旬までの3ケ月間,追跡調査として関西地区に2回目の緊急事態宣言(2021年1月14日から2月28日)を経て感染者が減少した時期である3月初旬から4月末の期間で調査した.調査項目は基本属性に加えて主観的健康感,老年期うつ病尺度(GDS-S-J),老研式活動能力指標,要介護のリスク(運動機能,閉じこもり傾向,認知機能)とした.要介護のリスクの有無の判定は厚生労働省の介護予防・日常生活圏域ニーズ調査の手引きに準じて実施した.
分析は追跡調査で「健康」から「非健康」へ移行した対象者の実態把握とその背景要因を検討した.そこで,先行研究に準じて初期調査・追跡調査の2時点で「健康」・「健康」である場合を「健康維持」,「健康」・「非健康」である場合を「健康悪化」として,両群の初回の基本属性,生活機能,要介護リスクに差異があるか検証した.さらに,健康維持・健康悪化の2値を従属変数,GDS-S-Jの変化,老研式活動指標の3項目の得点の変化,介護リスクの変化を独立変数としたロジスティック回帰分析を実施し,主観的健康感の健康悪化に関連する要因を検証した.統計処理はIBM SPSS Statistics Ver.27を用い,統計学的有意水準は5%未満とした.
本研究は,兵庫県立大学の倫理委員会で承認を得て実施した(2019年 12月5日承認 220).
【結果】
対象者80名は男性45%,女性55%であり,年齢は73.86±5.07歳であった.これら対象者の主観的健康感の「健康」は,初回調査で88.0%,追跡調査で78.3%であった.そして,初期調査時点の基本属性,抑うつ,介護リスク,生活機能に差異があるか比較した結果,要介護のリスクの運動機能で健康悪化が「運動機能の低下あり」60%.「運動機能の低下なし」14.7%で有意差が認められた.老研式活動能力指標の手段的ADLは健康維持は4.43±0.52点,健康悪化は4.07±0.82で有意に健康悪化が低かった.また,ロジスティック回帰分析の結果,健康悪化には「運動機能の低下あり」が有意に関連していた.
【考察】
先行研究では,高齢者の主観的健康感に運動機能の低下が関連していることが示されている.COVID-19流行下においても同様の結果が得られたことから介護リスクが助長されることで主観的健康感が悪化に転じた可能性が示唆される.そして,主観的健康感を「健康」に保つためには「身体の活動を維持していくこと」が重要であることが示唆された.