第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-10] ポスター:高齢期 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-10-2] Point Of Care リハビリを活用した事でADL向上に繋がった事例

岩田 睦 (社会医療法人熊谷総合病院医療技術部リハビリテーション科)

【はじめに】地域包括ケア病棟では, 疾患別・がん患者リハ以外に, 包括算定を活かした時間・単位・人数に縛られないリハビリを提供できる. 当院では入棟時に主治医が疾患別リハ提供の有無を判断し, 提供のない患者に対しては, 専従OTがNsと協働し, 患者が実際に行うADLに直接介入するPoint Of Careリハビリ (以下POCリハ)や集団リハビリを提供している. 今回介入拒否が続く臥床状態の事例に対してPOCリハを活用した結果, ADL向上に繋がったため報告する. 事例より発表の同意を得た.
【事例紹介】独居の90歳代女性. 家族は遠方在住. 頑固な性格で, 交流や他者の支援を嫌い, 病前はテレビ視聴や数独をして過ごした. X日アテローム血栓性脳梗塞を発症し当院一般病棟へ入院. 右半身の軽度麻痺と中等度の運動性失語を呈し, 身辺動作自立を目標に疾患別リハを開始した. HDS-R11点. X+11日家族がリハビリ見学後, 事例の施設入所を希望. 直後に入院生活のストレスにより事例の帰宅願望が増強し, 療法士の服を見ると無言で布団を被り, リハビリや離床を頑なに拒むようになった. X +27日地域包括ケア病棟転棟後も拒否が続き, X+33日主治医指示により疾患別リハを終了. 専従OTが介入を開始した.
【評価】FIM運動26点認知13点. ADLはベッド上にて全般介助, おむつ内失禁. Vitality Index(以下VI)1点. 病識は乏しく, 昼夜逆転傾向. OTの声掛けには布団を被ったままだが, 頷きがあった. Nsの介助も嫌がるが, 最低限のケアは容認している.
【経過】1週間毎にNsとカンファレンスを行い, 介入内容を調整した.
X+34日: OTは声掛けや昼食時の離床介助など, 短時間の接触から介入を開始. また, 事例の自発的な離床を促すために福祉用具を用いて室内環境を調整した. Nsはおむつ交換時にポータブルトイレへ誘導を開始. 事例は運動や離床の提案に対しては首を横に振ったが, 食事を目的とした離床介助は拒否が少なく, トイレ誘導にも1日1回程度応じた. 介入開始から5日後, 事例の態度が軟化し始め, 時折自身で起き上がる様子がみられた.
X+41日: OTは気分転換として散歩を提案し, デイルームまで介助歩行にて誘導を実施. 事例は景色やテレビに興味を示し, 長時間離床を行えた. 翌朝, 事例が自室を出て転倒. 自室から出た理由を尋ねると「トイレ」と初めて発話があった. 同日よりOTは昼食時に移動介助を行い, デイルームへ誘導. Nsは病棟トイレへの定時誘導を開始した. 介入に伴い事例の発話が増え, 消極的だが離床の促しに応じるようになった.
X+48日: OTは昼食前後で介入時間を延長し, 更衣, 整容練習を実施. Nsは定時誘導を継続した. 徐々に事例の受動的な行動が能動的に変化し, 自室から出る際には自身で身だしなみを整えるようになった. また離床拡大に伴い尿便意と排泄のタイミングが一致しだし, 一人でトイレへ行こうと歩き出す事が増えた. トイレの定時誘導を夜間のみとし, 日中は事例の自主的な行動を支援しながら, 必要に応じて介入を行う事とした.
【結果】X+69日, FIM運動57点認知23点. ADL は独歩にて見守りから一部介助. VI7点. 身体・認知機能評価は拒否. 午前は集団体操に参加し, 昼食はデイルームで摂取. 余暇時間は作業活動の取り組みや, Nsの付き添いで散歩を行っている. X+76日, 家族の居住地に近い有料老人ホームへ入所した.
【考察】事例は病識が乏しく, 数十分の介入を必要とする疾患別リハビリの実施が困難であったが, 実際のADLへ直接介入するPOCリハの受け入れは良好であった. 他職種と協働し事例の生活に沿った介入を行った事, 介入を通して離床が拡大し, 事例の自発性が向上した事がADL向上に繋がった要因であったと考える.