第57回日本作業療法学会

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ポスター

高齢期

[PJ-11] ポスター:高齢期 11

Sat. Nov 11, 2023 3:10 PM - 4:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PJ-11-4] 中等度認知症患者に対し活動日記とナラティブを併用した関わりにより参加拡大に繋がった事例

朝倉 真未1, 丹野 拓史1, 齊藤 雄一郎1, 中村 充雄2 (1.IMS(イムス)グループ医療法人社団明生会イムス札幌内科リハビリテーション病院リハビリテーション科, 2.北海道公立大学法人札幌医科大学保健医療学部 作業療法学科)

【はじめに】高木(2020)は,地域高齢者を対象に活動日記はセルフモニタリングツールとして機能することで,作業に対する認識が向上し,生活の中で満足を感じる作業経験が増えた結果,生活満足度や生きがい感にポジティブな影響が生じたと述べている.今回,活動量が低下し社会参加が減少した中等度認知症の90歳代女性に活動日記を用い振り返ることで生活満足度や生きがい感が向上し参加拡大に繋がった.認知症患者に対する活動日記の効果的な使用について考察を加え報告する.尚,今回の報告に際し同意は得ている.
【事例紹介】A氏90歳代女性.施設入所中に両膝変形性膝関節症による疼痛で歩行困難となり,X年Y月当院入院.入院前は,認知症を呈しながらも身辺動作は自立していた.
【作業療法評価】HDS-R/MMSE:14/17点で,短期記憶の低下があった.高齢者生きがい感スケール9点/32点中と大変低かった.生活満足度は8点で「今は足が痛くてそれどころではないがここに来れて良かった」と話された.ADLはFIM72点で生活全般見守りレベルであったが,リハも「今日は起きたくない」と拒否もあり,ほとんどベッド上で過ごしていた.
【介入方針】高木が作成した活動日記は,“作業経験を想起して話がしやすくなる”メリットがある.その場の作業は楽しむがエピソードをすぐ忘れてしまい何事もできないと思ってしまうA氏には活動日記を用い,その日の作業を振り返ることで生活満足度やいきがい感が向上し,参加拡大を期待した.「余裕がない」と日記の記載に抵抗があったため,A氏が語った内容をOTRが記載することにした.語るだけではなく,記録として残すことで振り返ることができると考えた.
【経過】語るエピソードの一つに『短歌』があり,「昔夫の句を筆で書いていたの」というエピソードをもとに筆で短歌の書き写しを行った.その日の語りには,「久しぶりに筆を持って楽しかった」と前向きな発言が聞かれた.しかし「今日は足が痛くて動きたくない」と話すこともあり,拒否も週1〜2回あった.その際は,活動日記を用い前日の作業を振り返った.想起しやすいように日記とともに写真も貼付していたため,「私こんなことしてたんだ」と作業経験の想起を強化した.次第に「短歌教室の後に友人と喫茶店に寄り道するのが楽しかった」という発言も聞かれ,週に一度他患と茶話会を開催した.最初は参加に促しが必要だったが,その日の記録時には「美味しいコーヒーを飲んだの初めて」と話され,人が満足と感じる8つの要素の選択肢では“人と関わった”“楽しんだ”の項目に選択が多く,その日の満足度も高かった.翌週には当日の朝にOTRの声かけ後自ら着替えを行い歩いて茶話会に参加した.
【結果】生活のほとんどをベッド上で過ごしていたが,茶話会の参加やOTRとの短歌教室の実施,リハ拒否の軽減などベッドから離れる頻度が増え,参加が拡大した.FIMも90点と向上した.高齢者生きがい感スケールは17点/32点中,生活満足度は10点と向上し,「1カ月でこんなに良くなるなんて思わなかった」と発言が聞かれた.
【考察】高木(2020)は,作業に焦点を当てたプログラムにより,作業満足度が向上したと述べている.今回は,活動量の低下に伴い社会参加が減少した認知症患者に活動日記を取り入れた結果,その日行ったことを語り振り返ることで,楽しい作業を通して昔の「わくわく」した感情を取り戻し,生活に対する満足度や生きがい感が向上したことでクライアントの参加に繋がったと考える.また,認知症患者には活動日記を文章のみでの記録だけではなく,写真などで作業場面の様子を残すことで作業経験の振り返りに有効と考える.